夜笑う路地裏
「――よし、そろそろ行くぞ」
ラグナが腕を組み、低く声をかける。
その背に続き、白矢たちはぞろぞろと歩き出した。酔っ払いに絡まれても軽くあしらい、馴染みの屋台へ軽口を飛ばしながら、夜の街を巡っていく。
「それにしても」
提灯の明かりをくぐりながら、ラグナが雑談めいた声で振り返った。
「お前らって結局、何なんだ? 妙に人間離れしてるしな」
軽い問いかけに、四人は一瞬顔を見合わせる。
「ぼくは――唯一種。影に潜ったり、遊んだり、まぁ便利っちゃ便利な存在だね」
白矢がへらへら笑う。
「戦鬼種だ」
飾折は胸を張り、肩から焦げ臭い瘴火を散らしてみせる。
「シンプルに力押し。殴ればだいたい砕ける」
「進化アンデット種」
清太郎は淡々と答え、わざと骨を鳴らした。
「死なない体ってやつだ」
最後に、獬崎は静かに微笑む。
「わたくしは、毒と聖光を操る異能の媒介者。癒やしと破滅――その両極をこの身に宿しておりますの」
ラグナはしばし沈黙し、額を押さえる。
「……おいおい、冗談抜きでお前ら反則だろ。そんな力、反則負けもんだぞ」
サラも引きつった笑みを浮かべ、半ば自分に言い聞かせるように呟いた。
「私……この世界の常識で考えない方がいいんですよね、きっと」
白矢はにやりと笑い、軽く肩を竦める。
「そうそう、常識なんて一番つまんないもんだからね」
白矢はくるりと獬崎へ顔を向ける。
「そういや、かいちゃんの“聖光”って……具体的にどんなことできんの?」
「欠損を直し、瀕死の者すら癒せるほどの力ですわ。この世界に来てから授かったものでして……広場で披露した時は怪我人がおりませんでしたから」
「えっ、それめちゃくちゃすごいじゃん」
白矢は目を輝かせる。
「じゃあさ、回復薬とか作れたりしない? 瓶詰めしてポーション的なやつ」
「理屈の上では可能でしょう。もっとも、神の力を小瓶に詰めるなど滑稽ではありますが」
「いいねいいね! じゃあ毒や薬を濃縮して抽出――みたいなことも?」
獬崎は小首をかしげ、唇に微笑を浮かべる。
「毒を濃縮、ですか。面白い発想ですわね。薬か毒か、それを選ぶのは与えられた者次第――まさに神の采配ですわ」
「俗っぽいの大好きだからね!」
白矢がケラケラ笑う。
「ほら、“シロップ”とか名前つけて売り出そうよ。『新商品! 一口で極楽か地獄!』って!」
「いやいや、そんなもん誰が飲むんだよ」
清太郎がぼやき、飾折も呆れ顔で言う。
「瓶に“飲むな危険”ってラベル貼っとけ」
今度は白矢が清太郎に肘を突く。
「で、清太郎。君さ、不死の体で小細工できんじゃない?」
「小細工?」
「そうそう。腕から狼の顔とか生やして噛みつかせたりさ。あと腹の中に武器隠して、必要なときにガシャーン! って取り出すの。コンビニ袋からファミチキ出す感覚でさ」
「腹からファミチキってお前……」
清太郎は苦笑しつつも、妙に楽しそうに肩を回す。
白矢はさらにニヤリと顔を寄せる。
「それとさ、かいちゃんの毒薬とか回復薬も体内に隠したら便利じゃない?」
「……毒はわかるが、回復薬まで入れる意味は? 俺、不死だぞ?」
清太郎が眉をひそめる。
「いやぁ~、体内で瓶割ってさ――ゲロで回復したら面白くない?」
一瞬の静寂。
次の瞬間、街のざわめきすら吹き飛ばすような大爆笑が走った。
「ぶはははははは!! きったねぇ! でもアリだわそれ!」
飾折は腹を抱え、涙を流しながら膝を叩く。
「……っふ、ふふふ……神の加護を吐瀉物に託すとは……あははは!」
獬崎は口元を押さえながらも、肩を震わせて笑い転げる。
「ぐははははっ! 回復のゲロって……っ! 聞いたことねぇぞそんな発想!」
ラグナは拳で電柱を叩き、背中を仰け反らせて豪快に笑う。通りの酔っ払いまで振り返るほどだ。
「ははっ……っくく……! 自分で言っといて何だが……アリかもな、それ」
清太郎まで吹き出し、苦笑しながら肩を震わせる。
白矢は両手を広げ、ドヤ顔。
「でしょでしょ!? “ゲロで復活”――これぞ新時代の治療法!」
「うわ、それ想像したらマジで笑えてきたわ!」
清太郎もとうとう腹を抱え、他の三人やラグナと一緒になって笑い転げる。
夜の繁華街に、腹の底からの笑い声が響き渡った。
――と、不意に、その笑い声の裏で刺すような気配が走った。
数軒先の居酒屋から、荒々しい声が飛ぶ。
「おい! 酒もっと持ってこいって言ってんだろうが!」
「ははっ、金なんざ後でいいんだよ!」
通りの人々が一斉に道を避け、視線がそちらへと集まる。
店の暖簾を乱暴に揺らして出てきたのは、背に派手な刺青を刻んだ男たちだった。
ラグナの目が細まる。
「……グレイブスの連中だな。俺の縄張りで騒ぎやがって」
笑い声はぴたりと止み、一行の空気が鋭く張り詰める。
夜の街に、不穏な影が忍び寄っていた。
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