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瘴火と不死身

 店の裏にある広場は、まるで学校のグラウンドほどの広さがあった。石畳の地面は踏み固められ、所々に焦げ跡や割れ目が走っている。どうやら過去にも訓練や喧嘩の舞台に使われてきた場所らしい。


 サラは若干心配そうに四人を見守り、ラグナは腕を組んで仁王立ちになり、重々しく言い放った。

「ここで実力を見せてくれ」


 最初に一歩前へ出たのは飾折だった。黒セーラーの裾を翻しながら振り返り、悪びれもなく笑う。

「いい感じに壊せそうなもんがないからさ。清太郎、あんたサンドバッグやってくれ」


「おう、いいぜ」

 清太郎は快く応じ、広場の中央へ歩み出る。


 その様子を見て、ラグナがわずかに身を乗り出した。

「相手は俺が――」


「待った、ラグナさん」

 白矢が片手を上げて遮る。

「ここで馬鹿力のみやちゃんとやり合ったら、さすがに危ないよ。壊れるのは清太郎で十分だからさ」


 ラグナは一瞬言葉を飲み込み、眉をひそめながらも広場を見守ることにした。


「じゃあ、合図ねー……はじめ!」

 白矢の掛け声が響いた瞬間――飾折のセーラー服の裾と拳が、焦げ臭い瘴火に包まれる。

 赤黒い炎がぎらりと灯り、燃えているのに熱を持たない異様な輝きが夜気を歪める。


 そのまま飾折は大地を蹴り、勢いよく跳び上がった。


 ラグナの目が鋭く細まる。

「……なんだこの炎……?!」

 見覚えのない光景に、困惑を隠せない。


 空から拳を振り下ろし、清太郎の顔面を正面から叩き潰す。


 轟音。

 清太郎の頭部はあっさり地面に叩きつけられ、石畳は派手に陥没。砂煙がもうもうと立ちこめ、広場の中央には巨大なクレーターが穿たれていた。


 飾折は自慢げに拳を払って、白矢たちの方へ歩いて戻ってくる。

「どや?」


 その光景に、サラは息を呑み、ラグナは目を剥いた。

「おい……頭を潰したように見えたぞ?! 死んだんじゃねぇのか!」

 大慌てで駆け出しかける。


 だが白矢と獬崎はどこ吹く風。白矢はケラケラ笑い、獬崎は小さくため息をついているだけ。飾折に至っては「上出来」みたいな顔だ。


「おまえら……!」

 ラグナは怒鳴りかけた――その時だった。


 クレーターの中心から、頭のない清太郎が立ち上がる。

 ふらりと歩き出しながら、首の断面から肉と骨が盛り上がり、頭部がぐにゅりと再生していく。


「んー……ちょっと目がチカチカすんな」

 完全に顔を戻した清太郎が、何事もなかったかのように首を回す。


 白矢がケラケラ笑いながら指を差した。

「いやぁ清太郎、ほんっとに壊れても戻るんだね! 普通ならトラウマものだよ? ……あ、ついでにゾンビの真似して歩いてきてよ!」


「はぁ? ……まぁいいけどよ」

 清太郎は不満げに眉をしかめながらも、ぎこちなく片足を前に出す。両腕をだらんと垂らし、首を傾げて、まさにゾンビの真似をしながらのっそりと歩き始めた。


 すると飾折が、まるで何でもないように横から拳を突き上げた。

「おらぁ!」

 鈍い衝撃音とともに清太郎の頭がはじけ飛び、肉片が砂煙の中へ舞った。


 首から上を失った清太郎は、それでもふらふらとゾンビ歩きを続ける。血もほとんど流れず、身体はまるで操り人形のように前進する。


「ぎゃはは!!」

「あはははは!!」

「……ふふっ、これは傑作ですわ」


 白矢と飾折、そして獬崎までが腹を抱えて爆笑する。


 だがその間に、清太郎の首の断面から肉が盛り上がり、頭がみるみる再生していった。

 完全に顔を取り戻した清太郎は、笑い転げている三人をギロリと睨みつける。


「てめぇら……遊んでんじゃねぇ!!」


 次の瞬間、清太郎が突進した。

「うわっ!?」

「やべっ、来た!」

「きゃはははは!!」


 白矢、飾折、獬崎の三人は爆笑しながら四方に散り、清太郎に追いかけられて広場を逃げ回る。殴る素振りでかわしたり、わざと転んだり、子供のような軽い追いかけっこに変わっていく。


 その珍妙すぎる光景を、ラグナとサラはただ呆然と見守るしかなかった。

「……こいつら、本当に実力を見せる気があるのか?」

「笑ってる場合じゃないでしょ……こんなの、人間じゃない……」

 二人の表情には、庶民感覚での純粋な恐怖とドン引きが浮かんでいた。


 白矢、飾折、獬崎の三人は爆笑しながら広場を逃げ回り、清太郎に追いかけられていたが、やがて一通り騒ぎ終えると、息を整えて元の位置に戻ってきた。


「……ふぅ。まぁ、あんな感じで力は見せられただろ」

 飾折が肩で息をしながら、満足げに笑う。

「私のは単純明快、馬鹿力だ。殴れば大抵のもんは砕けるし――あ、さっき出たあの炎はなんか勝手に出る。使ったら強くなるっぽい、そんな感じ?」

 本人はよく分かっていないようで、阿呆みたいな答えに白矢が吹き出す。


 清太郎も腕を組んで鼻を鳴らす。

「んで俺は、ちょっとやそっとじゃ壊れねぇ身体だ。さっき見たろ? 頭潰されてもすぐ戻る。痛みは最初からねぇ。だから、砕けても立ち上がれる。それが俺の強みだ」


 そう言いながら、ふと思い出したように「あ、そういやこれもあったな」と呟くと、体中から骨がバキバキと突き出した。肩や腕、背中から白い刃のように骨が生え、異様な姿に変わる。

「――俺の新スキル、『異常再生いじょうさいせー』!」

 わざとふざけて名乗りを上げる清太郎に、白矢と飾折が腹を抱えて笑い転げ、獬崎まで口元を押さえて笑みをこぼす。


 一方でサラは蒼白になり、ラグナは険しい顔で二人を見据えた。

「……あの炎も骨も、聞いたことがねぇ。どんな種族なのか見当もつかん……常識じゃ測れねぇな」

 考え込むように唸りながらも、その目には庶民的な恐怖が色濃くにじんでいた。

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