路地裏の都会飯
香ばしい肉の匂いが漂う食卓に、四人の笑い声が重なっていた。
魔獣肉の炙り焼き――この世界に来てようやく口にできた“まともな飯”を前に、飾折は豪快にかぶりつき、清太郎は黙々と噛みしめ、獬崎は上品にナプキンで口元を拭う。
「ふう……ようやく胃袋が落ち着きましたわ」
「だな。あのコロッケ地獄の後だから余計に沁みる」
「いやいや、立派な社会実験だったでしょ?」
白矢が涼しい顔で肩をすくめ、飾折と清太郎に同時に睨まれた。
カウンターの奥から、ラグナの低い笑い声が響く。
「ははっ。よそ者かと思ったら、ずいぶん元気じゃねぇか」
四人は笑みを交わしながら食事を続けたが、やがて清太郎が水を飲み干し、ぽつりと呟いた。
「……にしても、この先どうする? 宿もねぇし、仕事もねぇ」
「そうだよねぁ。野宿とか絶対嫌だし」
白矢が苦笑し、獬崎は頷いた。
「神を名乗る身が地べたで寝るのは、さすがに少々見栄えが悪いですものね」
「とにかく稼げりゃいいんだ。働ける場所があればな」
飾折は肉を噛みちぎりながら豪快に笑った。
腹は満ちても、不安は消えない。
この街で生きるには、拠り所となる仕事や宿がどうしても必要だった。
そんな会話を聞いていたラグナの眼差しが鋭さを増す。
「なんだ、おまえら。仕事を探してるなら紹介してやることもできる。だが紹介できるのは裏稼業や荒事ばかりだ。お前に実力と覚悟あるってんならな」
白矢はにやりと口角を上げ、肩をすくめる。
「へぇ、試験ってわけね。まぁ腹ごなしには悪くないね」
ラグナは鼻で笑い、鉄板の上の肉を返す。
「裏の広場に来い。鍛錬に使ってる場所がある。人目も少ねぇ、派手にやっても文句は出ねぇ」
「へっ、面白ぇ。腕試しには丁度いいじゃねぇか」
飾折が拳を鳴らし、清太郎は肩を回した。
「まあ、腹ごなしにはいいかもな」
「……神の力を示す場としても悪くありませんわね」
獬崎が微笑むと、白矢は楽しげに手を叩いた。
「決まりだね。次はちょっと暴れてみますか」
その時、暖簾が揺れ、軽やかな足音が響いた。
「ただいまー! あれ、おじいちゃん、もう店じまい?」
姿を見せたのは二十歳前後の娘だった。黒髪をひとまとめにし、肩には買い物袋を下げている。
「おう、サラ。遅ぇからじいちゃんが代わりに店番してたんだ」
ラグナが振り返って笑う。
「ふーん? 言い訳っぽいなぁ」
サラは口を尖らせ、客席を見回して目を丸くする。
「……わ、お客さん。ご新規さん? 珍しいね」
白矢が片手をひらひらさせる。
「やぁどうも。観光気分で流れ着いただけさ。せっかくだし、ここで自己紹介でもしとこうか」
軽口とともに、四人は順に名乗った。
「白矢旬祢。気まぐれで首を突っ込むのが趣味」
「飾折雅だ。殴れる相手と飯があれば文句はねぇ!」
「伏見清太郎。……まぁ、こいつらのストッパーのつもりだ」
「獬崎色。神を名乗る者ですわ。信じるかどうかはご自由に」
サラはきょとんとした後、思わず吹き出す。
「危なそうだけど……なんか楽しそうな人たち」
ラグナは腕を組み、改めて四人を見据えた。
「よし。なら話は早ぇ。食った分の元手は、しっかり働いて返してもらうぞ」
四人は顔を見合わせ、それぞれ違う笑みを浮かべながら席を立った。
路地裏での新たな幕開けが、すぐそこに迫っていた。
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