いつもの面子と日常
とりあえず頑張ります
「ぎゃはは!!」
「あはははは!!」
深夜の繁華街。歩行者天国となった通りは、ネオンの光ばかりが鮮やかで、人影はまばら。
その静けさを破って、騒がしく歩く四人組がいた。
「っんぐ! ぐるじぃ……!!!」
背の高い黒いセーラー服の女が、がっしりした男の首を締め上げている。男は必死に腕をタップするも、解放の気配はない。
「あー笑った! でもそろそろ落ち着きなよ、みやちゃん。あとでファミチキ買ってあげるから。ついでに神様(笑)にもワンカップ酒でも供える?」
栗色の髪をした優男――白矢旬祢。軽薄な笑みで場を煽るように口を開く。
「あら、供物を捧げる心は立派ですが……どうせならもっと高くて美味しい酒にしてくださいな? それと、神的にはあなたのその腹立つ顔を供えてくれれば、ビンタ一発分の祝福を授けますけど……いります?」
聖職者めいた女――獬崎色。自らを「神」と名乗り、柔らかな笑みと共に毒のある冗談を返す。
「僕は清太郎みたいに痛いの平気じゃないから、その祝福は遠慮しとくよ」
白矢が肩をすくめると、窒息寸前だった大男――伏見清太郎が首を鳴らしながら笑った。
「なはははは! 俺は痛いのは平気だが、苦しいのは勘弁だ!」
「清太郎! てめぇ関節外して逃げてんじゃねぇ!」
「うるせぇ暴力女! 唐揚げ一個で騒ぎすぎな……ぐふっ!」
拳が清太郎の頬を打ち抜く。黒セーラーの女――飾折雅。口より先に拳が飛ぶ暴力担当だ。
「あーあー、また始まった。……てゆうか、なんで毎回その黒セーラー着てるの? 他の服着ないの?」
「死んでもイヤ」
白矢がニヤつき、飾折は一瞬も迷わず断言。その目には、暴力とは別の執着が宿っている。
「おーこわ。服にまで命賭けるタイプね」
「それどころじゃねぇ!」清太郎が呻く。
「大丈夫ですか? 歯とか折れてませんか? さすがの神でも歯は治せませんよ?」
「んー……大丈夫、大丈夫。折れてねぇと思う。ありがとな、かいちゃん」
「ふふ……友を憂うのも、神の務めですから」
騒がしくも息の合ったやり取り。どう見ても普通じゃない連中――だが、それこそが彼らの日常だった。
そんなふざけ合いの最中、通りの先に不良たちがたむろしているのが見えた。路上に座り込み、缶ビールをあおり、通行人を威嚇しては笑っている。
「ちょうどいいじゃねぇか」
飾折が拳を鳴らす。獲物を見つけた猛獣のように、瞳がぎらぎらと輝いた。
「おいおい、みやちゃん。コンビニに行くはずだったのに、急に寄り道?」
白矢が飄々と笑い、わざと大声を上げる。
「すいませーん! ここに絡まれそうなカモがいまーす!」
その一声で、不良たちの視線が一斉に集まる。
「やんのか? おらぁ!」
怒号とともに数人が立ち上がり、缶ビールを投げ捨てながら歩み寄ってくる。
飾折は一歩前に出て、拳を構えた。
「よーし、上等! 思いっきり殴れる相手が来たな!」
清太郎は呆れたように頭をかきながらも、首を鳴らして構える。
「ったく……面倒くせぇけど仕方ねぇか」
白矢はすでに動いていた。不良のひとりの懐からナイフを奪い取り、くるくる回して遊ぶ。
「おっと危ない。こんなもん持ってたらケガしちゃうでしょ? みやちゃんにプレゼントする?」
「いらねぇ! 私は拳で十分だ!」
飾折は叫ぶや否や、不良の顎に強烈なアッパーを叩き込んだ。男の体が宙を舞い、路上に叩きつけられる。
「ひっ……!」
残った不良の一人が怯んだ瞬間、清太郎が正面から突っ込んだ。
「神様に手ぇ出す前に、俺が相手してやる!」
大柄な体をぶつけて押し倒し、そのまままとめて三人を地面に叩きつける。
その様子を、獬崎は冷ややかに見下ろしていた。
「……愚かなことですわね。神に挑むには、信仰心が足りませんわ」
彼女は静かに指を鳴らす。どこからともなく香の匂いが漂い、不良たちの顔が青ざめていく。
「うっ……なんだこれ……!」
ふらつく不良たちを、飾折と清太郎が順に殴り飛ばす。
白矢は後ろから眺めてケラケラ笑っていた。
「いやぁ、最高だね! 戦利品もたっぷりだし!」
いつの間にか財布を数枚抜き取って、ひらひらと見せびらかす。
「おまえ……ほんっと最低だな」
清太郎が呆れるが、獬崎は小さく肩をすくめた。
「……供物として捧げるなら、罪は軽くなりますわ」
「じゃあ神様にぜーんぶお供えで!」
白矢はわざとらしく献上するような所作を浮かべて金を差し出す。
「ふふ……よろしい。では祝福を分け与えましょう」
獬崎は札を手際よく四等分し、みんなに配り始めた。
「神様バンザーイ!」
「おい! 私の取り分もっと増やせ!」
「ははっ、結局みんな欲に正直なんだな!」
笑い声が路地裏に響く。だが――。
遠くからサイレンが近づいてきた。
「……あー、すっかり忘れてた」
白矢が耳をそばだて、にやりと笑う。
「解散の時間でーす! 神様も暴力女も、不死身も、まとめてレッツ逃走!」
「おっしゃ! 逃げも得意だ!」
「誰のせいだと思ってんだコラ!」
「……まったく。子供の遊戯そのものですわね」
四人は笑い声を残し、夜の街を駆け抜けていった。
残されたのは、倒れ伏す不良たちと、遠ざかる笑い声だけだった。
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