家が盗まれた!
お待たせしました、第二話です。正晴は前回、事件の犯人の1人であった広谷祐と協力して犯罪に立ち向かいます。新キャラクターも登場します。ところで本作は主人公が様々なトラブルに立ち向かうという話なのですがそれってテレビ番組「突破ファイル」に似ているのでは?と思いました。
土曜日の朝、正晴は市内のある場所に言ってしまえば野次馬として訪れていた。現場はすぐに分かった。
あたりに立ち入り禁止を示す黄色いテープが張り巡らせてあったからだ。警察の規制線に沿って野次馬達が集まっている。正晴がテープの先を覗くと聞いていた異様な光景を彼自身の目で見ることができた。テープの先には道路があり、その先は崖で下には川が流れている。その向かい側にも同じく崖と、その端で途切れた道路がある。川面からはコンクリートの円柱が二本飛び出している。先週までこの場所には鉄橋があった。しかし今週の月曜になって、それが基礎だけを残して消失しているのが発覚したのだ。この奇妙な事件は瞬く間に市内全域に広がった。正晴の元にもその知らせが届き、こうして見に来たという訳だ。
「それにしても変な事件だなあ。」
不思議に思いながらも正晴には全く心当たりが無いわけではなかった。外国では建築物の金属部品を狙った建物の盗難事件が発生していることを彼は知っていたからだ。しかし、橋が犯罪の被害に遭ったと仮定したとしても、今回のような大型の建築物が被害に遭うというのは海外でもなかなかお目に掛からないし、そんなことが日本で起こるなんてやはり信じがたいと言わざるを得ない。現場を一通り拝見した後、満足した正晴は帰ることにした。
自宅まであと一歩というところで自宅の前に2人の男性が立っているのに気づいた。警戒して足を止める。警察関係者だとすぐに分かった。彼らの1人が制服を着用した警官だったからだ。もう1人は背広姿だ。背広の男が正晴の母に何か尋ねている。
「すみません、うちに何か用ですか?」正晴が後ろから呼びかけると2人とも振り返った。
「ああ、正晴なの?帰ってきたのね?」母が正晴の方を見て言った。
「息子さん?」
「はい、僕がそうです。」背広の男からの質問に答えた。
「こういうものなのですが...。」そういうと警察手帳を見せてきた。どうやらこの男性も警察官のようだ。すぐに胸ポケットに入れ直したためじっくりと手帳を眺められなかったが私服警官の名前が
藤崎涼介藤崎涼介だということは分かった。
「今週初めに発覚した建造物の盗難事件についてお聞きしたいのですが。ご存じですね?」
「はい、さっき現場を見に行ってきました。」
「なら話が早い。犯行は先週、日曜日の深夜行われたと推測されます。そこで事件について何か情報をお持ちではありませんか。例えば不審な人物を見かけたとか。」
「昨日は僕も母さんも夜の10時くらいには寝てしまったので分かりませんね。お役に立てずすみません。」
「なら結構。」
そう言うと藤崎は制服警官を後ろに連れて透望邸の前の路地に止めてあったパトカーに乗り込み走り去っていった。去り際に制服警官が正晴と母を振り返って会釈した。
「母さんはあの人達になんて答えた?」
「あなたと同じ。何も知らないって言ったわよ。」
正晴が玄関の扉を開けて中に入り、母が後に続く。
「それにしてもあの藤崎とかいう警官態度が悪かったな。僕と母さんから有望な情報が得られないと分かった途端、例も言わず出て行ったぞ。」
「警察の人に悪口を言っちゃだめよ。あの人達が街の治安を守ってくれているんだから。」
「そうだね、ごめん。ところで今日僕は先月駅前にオープンしたうどん店に昼食を食べに行ってその後
帰るつもりだから。」
「私も昼から友達とご飯を食べに行くわ。」
「僕が帰宅するのは午後2時くらいだから。」
そう言い終えると正晴は2階の自室へと上がっていった。
正晴は路線バスのシートに腰掛けていた。バスはついさっきまでいた駅から遠ざかっている。
彼は食事を楽しんだ後、駅の周辺をあてもなく歩き回り今は自宅に戻っているところだった。
友達を呼んだほうがもっと楽しめたかもしれない。祐も明子も今、暇だったはずだ。
そんなことを考えている内に自宅近くのバス停に到着した。腕時計を見る。ちょうど午後の2時になったところだ。運賃を払ってバスから降りた。家まで少しの距離を歩かなければならない。
もうだいぶ近づいてきた。角を曲がると我が家だ。しかし正晴はなぜか自宅を見つけることが出来なかった。場所を間違えたか?いや、そんなことはない。あたりを眺めていると見覚えの無い空き地を見つけた。気になって近づくとコンクリートの直線的な物体がある。これは、建物の基礎だ。
正晴は彼の知性が瞬間的に導き出した事実に驚愕せざるを得なかった。
だが、疑いようが無い。僕の家は消えたのだ。基礎だけを残して。
再び知性が目の前の出来事と今朝の出来事を結びつけた。鉄橋盗難事件と同じだ。
40分後、透望邸跡地の前の路地に多くのパトカーが止まり、敷地の中にも大勢の警官達が動き回っており現場は混乱の様を呈していた。正晴と彼の母は朝、自宅を訪問した刑事の藤崎から事情聴取を受けていた。
「ということは12時過ぎくらいには2人とも家からいなくなっていたということですね。周辺の住民に話を聞くと12時20分頃4台の大型トラックがお宅の家の前に止まったことが判明しました。その後、8~9人ほどの男達が工事用の機材で家を解体し1時50分頃には分割した建材をトラックに積んで走り去っていったようです。犯人は一時間半ほどで作業を終え目撃者は合法的な工事と思ったそうです。」
「そんなことは正直どうでもいいんです。盗まれた我が家は戻ってきますか?」
母が青ざめた顔で言った。
「犯人が家を粉々にしていなければ。今、検問と並行して市内の大型トラックの所有者に対して取り調べを行っています。それで引っかかればいいのだが。」
「ところで藤崎さん。犯人はやはり一週間に橋を盗んだのと同じ連中でしょうか。」
藤崎は正晴を見つめて言った。
「確証は無いが多分そうだ。君たちの家は木造でしかも小さいから標的に選ばれたんだろうな。」
「廃材業者に売るつもりでしょうか?」
「もしもそのつもりなら重機を使って完全に破壊しているはずだ。でも目撃者の話を信じるなら犯人はそんな荒っぽいことはやっていない。」
海外に持ち出してそこで組み立て直すつもりなのかと正晴は思った。僕たちの家が誰か知らない人の家になるのかもしれない。だけど引っ越すのは人じゃ無くて家だ。だけど犯人がそんなことを企てているならまだ希望がある。奪い返せる。
「家を失った私たちは残りの一日をどこで過ごせばいいのですか?宿に泊まるお金もありませんが。」
母の質問に藤崎が答えた。
「警察署の職員用仮眠室を用意してある。」
気づくとあたり一面が野次馬で埋め尽くされている。ほとんどは基礎だけになってしまった透望邸に目を向けていたが正晴達を見つめる者もいた。正晴がその一団を睨もうとするとなじみのある顔を見つけた。
すぐに近づいて声をかけた。
「祐じゃないか。どうしてここに?」
「たまたまお前の家の近くを通りかかったら何か騒ぎが起きていてな。気になって来たんだよ。」
内心、このタイミングで祐が現れたのは幸運だと正晴は思った。
「いきなりで悪いけど僕の頼み事を聞いてくれないかい。単刀直入に言えば僕をお前のバイクに乗せて
町中を走り回ってほしいんだ。」
「いいけど、そりゃあ一体どうしてだ?」
「犯人、いや違うな、そうじゃなくて盗まれた家を見つけるのを手伝ってほしいんだ。」
「だめよ!あなたには危険過ぎるわ。警察に任せておけばいいの。それにもしも祐君に何かあったら...。
」
いきなり母が会話に割り込んできて正晴は少し驚いてしまった。
何だ聞いていたのか。
「大丈夫だよ母さん。遊びみたいなものだから。それに危険なことは一切するつもりは無い。」
「2人とも署までご同行願いたい。いいですね。」
藤崎が言った。
「じゃあ明日だからな、祐!」
祐に手を振ってパトカーに乗り込んだ。
翌日、正晴が入り口をくぐって警察署から出ると署の前の路地にバイクが停めてあった。ヘルメットをかぶった祐がシートにまたがっている。正晴に気づくとヘルメットを手渡してくれた。
「助かるよ。ところで僕が行きたい場所がどこなのかを指し示さなければいけないだろう。」
「建築業者じゃないのか?」
「もうそこは警察に調べられている。僕たちが向かう必要はない。それに犯人も事前にそのことを予想していたはずだから僕の家はもっと人目のつかない場所に隠されていると思う。」
「じゃあどこだ。」
「僕が思うに街外れの廃工場だと思う。あそこなら人もあまりいないし。」
正晴はシートの後ろ側、祐の体からはみ出した部分に座った。
「あまり急ぐ必要は無い。今、検問が実施されているからな。犯人も遠くまではいけないはずだ。」
正晴が祐の背中にしがみつくと規則的なエンジン音が鳴りバイクが前進し始めた。
実は正晴がバイクに乗るのは今回が最初であったため自分でも無茶をしているなと思った。それほどに自分は自宅を恋しがっているのだと正晴は祐の背中で揺られながら思った。郊外に入っていき木々や林が視界を占めるようになってきた。
「もう良いぞ。この辺で止まってくれ。」
正晴は大声で前方に呼びかけた。祐はちょうど道路の片側にあった自販機が数台ぽつんと置かれた空き地までバイクを走らせ止まった。
「あまり現場に近づきすぎると犯人に気づかれるかもしれないからね。ここからは歩いて行こう。」
祐は携帯電話の地図アプリを起動した。くさび型のマークが確かに自分たちが例の工場の近くにいることを示している。
「ところでお前は自分の考えを警察に伝えたのか?」
正晴は首を振った。
「一般人でしかもただの学生の僕が警察に助言するなんて傲慢じゃないか。彼らも同じことを考えてるよ、多分。」
「実はもう1つ気になることがあって。一体どうやって犯人はお前とお前の母さんが出かけて家にいない時間を知ったんだろう。」
「それは僕も昨日考えたんだけどさ、家に盗聴器が仕掛けられていたんじゃないかって思うんだ。」
「何か根拠は?」
「実は4日前に家にセールスマンが来たんだ。そしてその人は僕にボールペンをくれた。これまでに来たセールスマンはものをくれるなんてしなかったから、もしかするとあれは窃盗団の仲間でペンの中には盗聴器が入っていたんじゃないかな。」
祐はふと足を止めて再度携帯を見た。目標まであと200メートルだ。
「正晴、そろそろ目的地に近い。なるべく気配を消そう。」
「正面から言ったらばれるかもしれない。林を抜けて回り込もう。もしも犯罪の証拠を見つけたら迷わず警察に電話してくれ。」
祐の目論見通り木や草が2人の姿を上手く隠してくれそうだ。しばらく歩くと例の廃工場が見えてきた。
遠くから様子を伺う。人や車両は見当たらない。もう少し近づく。工場の入り口から内部が見えるくらいの距離になった。
そのとき入り口から誰かが出てきた。よく見ると以前正晴の家を訪問したセールスマンだ!
正晴は携帯電話のカメラで抜け目なく彼の様子を撮影した。セールスマンは建物に戻ることなく遠くに歩き去った。見た限り工場内に人はいないようだ。
ここで正晴は一か八かの賭けに出ることにした。
「今から僕はあの中に入る。多分盗品があるはずだ。見つけ次第、祐にメールで連絡する。もし誰かが建物に近づいたりすることがあれば携帯のバイブレーションで僕に知らせてくれ。」
「おい、待て。危険すぎるぞ!」
正晴は祐を無視して草むらから飛び出した。見た限り見張りなどはいない。なるべく素早く移動し扉から慎重に中の様子を伺う。金属製のコンテナが数台置かれている。この中に盗品が?
内部に入ってコンテナに近づく。鍵は掛かっていない。正晴は一呼吸した後思い切ってコンテナの扉を開けた。
中には形も大きさも多様な木材が入っていた。その中には片面が白く塗られているものがあった。僕の家の外壁と同じだ。カメラに収める。そのとき、携帯電話が振動し始めた。正晴は直ちに身を隠した。
数人の男達が室内に入ってきた。コンテナを前に何やら話し始めた。1人が奥に何か動くものがあるのに気づいた。その男は用心深い正確だったので確認のため近づくと物陰から誰かが飛び出した。
「あんた達の会話はすべて録音させてもらった!警察がもうすぐ到着するぞ!」
正晴を見て最初は戸惑っていた犯人達だったが外からパトカーのサイレンが聞こえるとすぐに右往左往し始めた。正晴に襲いかかろうとする者は1人もいなかった。逃げだそうとした者もいたがすぐに正面の入り口から大勢の警官が突入し取り押さえられた。
正晴と祐は廃工場の前に立っていた。入り口からコンテナがトラックの荷台に積まれて何個も運び出されている。彼らは短時間で事件を解決に導いてしまったのだ。だが正晴にとって名声などよりも我が家が戻ってきたことの方が嬉しかった。
お読みいただきありがとうござます!
以下長文失礼します。
読んで分かったと思うのですが前回よりも相当分量が多くなっております。当初、本作を一話独立形式にすることで時間の無い人でもサクサク読める小説にしようと思っていたのですが、この形式だと一話に話を全部詰め込まなければいけなくなってしまうため逆にボリュームのある物語が出来てしまうということが分かりました。これでは気軽に読めるという当初のコンセプトから外れてしまいますし、なにより一話書くのに時間とエネルギーがかかってしまい無気力な筆者はモチベーションが無くなってしまいます。
そこで次話から大幅に分量を減らし、1つの出来事を何話にも分けていきたいと思っています。
手探りで小説を書いているのでこのような変更がこれからも何度か行われるかもしれないということを断っておきます。




