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6 別れ

博士の通夜は町はずれにある葬儀場で執り行われた。会場は学校の教室くらいの広さで、部屋の前方に遺体が安置された棺があり、後方に来客用の椅子が並べてある。参加者は十人程度。正晴を除く全員が警察関係者だ。もちろん、涼介と望も出席している。


葬式としては、かなり人が少ない。病院の時から薄々気づいてはいたが、博士は本当に天涯孤独な人間だったらしい。正晴は席から立ちあがり、棺の方へ歩み寄った。蓋が開いており、中には当然のように博士の遺体が安置してある。悲惨な最期を遂げたにもかかわらず、棺に横たわる博士の顔は穏やかで、声をかけると起き上がりそうに見える。


正晴は手を合わせ、元の場所に戻った。僧侶がやってきて、読経を始めた。正晴は過去の回想をしていた。彼が最初に人の死に立ち会ったのは、今から11年前。母方の祖母がガンで亡くなった時だ。その当時、まだ幼かった正晴は人が死ぬということくらいは知っていたが、それでも、それがどういうことか、中々実感が湧かなかった。


正晴の記憶はもっと最近の出来事、博士と初めて会って、一緒に過ごしたわずかな時間に移った。激しい感情は起こらなかった。しかし、彼の温厚な人柄、そして、それにもかかわらず、理不尽に命を奪われたことを思うと少しだけ涙腺が緩んだ。


そんなことを、うだうだ考えていると葬式が終わった。正晴は会場の雰囲気と彼自身の湿った気持ちから逃れるため、会場の外に出た。エントランスでひんやりとした空気を吸い込む。建物の側面はガラス張りになっており、そこから街灯に照らされた静かな夜の駐車場が見えた。


後ろから声を掛けられ振り返ると涼介と望がついてきていた。


「雨島のことはすまなかった。言い訳のようでアレだが、あの時は仕事で手一杯だったんだ。そのためにお前にあいつを看取らせてしまった。」

「藤崎さん、僕は大丈夫ですよ。」


実際には、自分が博士の臨終に立ち会わされたことに良い気はしなかった。とはいえ、長年、博士と親交のある涼介が彼の死に際を目にすることがなかったのは幸いだったのかも。


「ところで、博士さんの探偵事務所はもう閉鎖されるのでしょうか。」

「そうだろうな。主人がいなくなったことには。」

「質問があるのですが、僕が博士さんの後継として事務所を引き継ぐことはできるでしょうか。」


涼介は少し間を置いて答えた。


「そりゃ、お前が探偵になるってことか?別に構わないが事務所の管理は難しいと思うぞ。賃貸料は払えるのか?」

「そんなことは分かっていますよ。でも博士さんを殺した犯人に一矢報いてやらないと。」

「そんなの無茶よ!確かに透望君に事件解決の才能があるのは認めるけど実際の犯罪を捜査するのは、あなたが思っている何倍も難しいのよ!」

突然、望が割って入った。どうした、と正晴は思った。ちょっとヒステリー気味だ。そんなに神経に触ることだったのか?

「いや、犯罪を追いかけることくらい、やらせたっていいだろう。もちろん危険は避けるという前提でな。」

「ありがとう、涼介さん。何かあったら質問してもいいですか?」

「出来る範囲ならな。」

「私は反対よ。民間人の力では限界があるわ。」

正晴は、またぎょっとした。今日の望は明らかに以前あった時よりも態度がとげとげしい。


新年明けましておめでとうございます。投稿が2ヶ月遅れてしまったことお詫び申し上げます。今年も本作を続けていく予定ですのでよろしくお願いします。

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