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4 

腕時計の秒針はもう8時を指していた。正晴は街灯の光を浴びながら雑居ビルの前に立っていた。


「今日は一日中引きずり回してすまなかったね。」


「大丈夫ですよ。勉強になりましたし。ところで1つ聞いても良いですか。」


「なんだい。」


「博士さんは僕を犯罪捜査の現場に連れて行きましたが一体どういうことでしょうか。僕はただのアルバイトのはずです。」


「実は僕にはある目的があるんだ。でもそれを今すぐに教えることは出来ない。」


同じ言葉を繰り返している。


「どうしても、ですか。」


正晴の言葉に頷いた。

どういうことだろうか。1つだけ分かるのは正晴が純粋にバイトを全うできそうにないということだ。

心の中で止めるという選択肢が提示された。いやそれは時期尚早だろう。




4日後、正晴は夕食を終えリビングでテレビを見てくつろいでいた。テレビでは取るに足らないバラエティー番組が流れている。すると食後だからかまぶたが重くなってきた。しばらくウトウトしながらテレビを見るともうバラエティーは終わっておりニュースに切り替わっていた。


アナウンサーがシリアスな顔で何か言っている。テロップを確認する。

隣県で男性が殺害されたらしい。そうか。凶器は拳銃。

目を見開く。4日前に見た事件と同じじゃ無いか。


「母さん、これ見てよ。」


「あら、殺人事件?怖いわねえ。」


「数日前にこの街で起こった事件と似ているんだよ。丁度明日が博士さんに会いに行く日だし何か分かるかも。」


雑居ビルの階段をコンコン音を立てながら駆け上がり扉を開けた。

「こんにちは。今日も来ましたよ。」


「やあ、よく来たね。早速で悪いけど要らない紙をシュレッダーにかけておいてくれないかな。」


「分かりました。」


部屋の隅にある小机に用紙がいくつもブロック状に積んである。そのすぐ傍の床に白色のシュレッダーが置いてあった。やっぱり書類仕事か。まあ僕はその方が楽だけど。


「もうすぐして望さんがここにやってくる。捜査資料を届けに来るようだ。」


「それはありがたい。それはそうと昨日のニュースを見ましたか。」


「見たよ。この街で起こった事件と驚くほどよく似ている。市外だから僕が呼ばれることはないだろうけどしばらくして涼介君あたりが資料を持ってきてくれるだろう。

だが先週の事件の調査は進行中でね、1つ興味深い点に気づいたんだ。涼介君は犯罪と関わっている証拠はないと言っていたが被害者はどうやら10年前に警察の取り調べを受けたらしい。」


正晴は用紙を5つ掴みシュレッダーの投入口に突っ込む。用紙が引き込まれていくのを感じると手を離した。


「何故ですか。何か悪さでもしたのかな。」


「それが詐欺の受け子をやったのではないかという疑いをかけられたからだそうだ。しかし十分な証拠が揃わなかったのでお咎めなしで釈放されたらしい。」


手元を見ると用紙はすべて中に吸い込まれていた。


「受け子ということは他にも仲間がいたということでしょうか。もし、いたとすれば彼らの行方が気になりますね。」


その言葉を聞いて博士はニッと笑った。


「そう、そこなんだ。今から丁度10年前、この街では詐欺事件が多発していた。もちろん警察は必死に犯人を追いかけたんだけど足取りをほとんど掴むことができなかった。そしてある時、1人の刑事が殺された。恐らく詐欺グループがやったんだろう。その刑事が犯人まであと一歩の所まで迫っていたのか、それとも警察への見せしめだったのかは分からない。結局、今日まで犯人は捕まっておらず事件は未解決のままだ。」


その事件については正晴も知っている気がした。当時は盛んにメディアで報じられていたからだ。

そして今、犯人グループの1人だったかもしれない女性が殺害された。


「というのが今分かっていることだ。熱く語って少し疲れたな。お茶を煎れよう。」






正晴は紙の束を裁断しつつ博士がシンクで茶を入れるのをぼんやりと眺めていた。

その時かすかな金属音が鳴った。事務所の玄関を見るとドアのノブが回っている。

望が来たのかと正晴は思った。

だが違った。全身を黒の衣料で固めた人物が入り口をくぐって中に入ってきた。

顔を覆面で覆っており、しかもその上からフードをかぶっているため顔は分からない。

謎の人物は正晴を一瞥(いちべつ)した後、彼あるいは彼女に背を向けている博士に右手を伸ばした。

正晴はその手に金属の冷たい質感の拳銃が握られているのを見た。

博士が振り返った瞬間、乾いた銃声が鳴り響いた。正晴はもうなにがなんだか分からなかったが小さい頃に遊んだ爆竹に似ているなと思った。

博士は膝から崩れ落ちた。殺人者が正晴の方を見た。その目には憎しみも同情も込められていなかった。

少なくとも正晴にはそう見えた。

そして来た時と同様入り口をゆっくりとくぐって姿を消した。


正晴はしばらく倒れた博士を黙って見つめていたが、わずかばかりの冷静さが戻ってくると我に返り直ちに彼の元に駆け寄った。腹周りのシャツが真っ赤な血で染まっている。

デスクの電話機を掴み叩くようにしてダイヤルを押した。


お読みいただきありがとうございます。ご感想、ご質問等がございましたらお気軽にどうぞ。

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