⑩憔悴の夜明け
二時間が経過すると、時刻を伝えるかのように朝日が完全に稜線から姿を現した。
交代で小休止を取っていたとはいえ、夜通し作業をしていた騎士達は、屯所の会議室に集まり、窓から入る眩しさに耐えていた。騎士達の疲労は既に限界に達し、何人かは目を細めては時々閉じ、無意識に体を揺らしている。
そこへデルが会議室に入って来た。騎士達は目を覚まそうと両手で顔を覆って目頭を強く押さえてから直立の姿勢をつくるが、部屋全体に疲労の空気が蔓延していたままだった。
「まずは皆、本当によくやってくれた」
崩れた雰囲気を察しつつも、デルは何も言わずに話を始める。
「疲れている所を悪いが、今後の予定を先に伝えておく」
デルは騎士団の本隊に、今までの事実を伝える部隊と、この街に残って作業を続ける部隊に分ける事を決断した。
既に少数の部隊をさらに二つに分ける。その狂気染みた内容に、辛うじて頭が働いている騎士達が徐々に動揺し始める。
デルが手を二度叩く。
「皆の動揺はもっともだ。だが我々はこの二つの、どちらも切り捨てる事はできない」
そして本隊に向かうのは、あくまでも戦闘が目的ではなく、事実を伝える事だと補足した。
「本隊に向かうのは、俺を含めて数名で行く。空からの偵察を受け続ける以上、大人数では発見される可能性がある。残りはこのまま作業を続け、終わり次第、近隣の街にもこの情報を伝えて欲しい」
その言葉に騎士達が顔を上げる。
近隣の街にもこの事実を伝え、駐屯している騎士達に警戒を促すという役目を忘れてはならないとデルが語気を強めた。
「蛮族、いや魔王軍がゲンテの街と同様に、物資欲しさに他の街を狙う可能性は十分にある。そこで、二名一組で南北の街に向かってもらい、俺の名前が入った書簡を届けてもらう。これにより、街に駐留している騎士達に警戒を促し、さらにギルドへの応援要請も行ってもらい、周囲への偵察も実行してもらう」
正面から戦う事は無理でも、一早く敵の動きを察し、必要があれば住民達を避難させる。それくらいはできるはずだとデルが説明する。
最後に、とデルは腰に手を当てて軽い口調で全員に伝える。
「中には作業が途中の者もいるかもしれないが、これより四時間の休息を取る………団長命令だ、全員気にせず、好きな所で寝てしまえ」
デルの言葉を最後に、半数以上の騎士達が一斉に腰を下ろし、ある者は壁に寄りかかり、ある者は胡坐をかいたまま下を俯き、即座に目を瞑った。残った半数の騎士も欠伸をしながら部屋を出始め、壁に手を這わせながら思いつく最短の距離で寝る場所を目指しに行く。
「今、敵が来たらさぞかし笑われるだろうな」
肩を僅かに震わせたデルが部屋を後にすると、廊下では途中で力尽きて寝ている者、食堂では椅子に座って一息ついてそのまま寝落ちた者、部屋まで入ったがベッドの手前で力尽きた者など、歩けば歩く程に様々な光景を見せてくる。
デルは心の中で騎士達に感謝の言葉を述べたが、デル自身も一瞬よろめき、自身の体力も限界に来ている事を自覚する。
だが今の自分には目を瞑る事は許されなかった。




