⑧勝利の中にある敗北
「………お前達が蛮族ではないと分かったからだ。少なくとも魔王軍という恐ろしい敵が現れた。そしてお前の姉は正々堂々と戦った。俺は………そういう相手には敬意を払うべきだと思っている」
デルの中で、少しずつもののの見方が変わっていた。今まで蛮族だからという理由で何百体と斬ってきたが、人と同じ言葉を話し、合理的な戦術をもって戦いに挑み、そして敬意を払うべき相手がいた事に気付く。
オセはデルの言葉にしばらく黙ると、言葉を選ぶように口を開いた。
「お前の名前、デルとか言ったか」
「ああ」
オセの言葉に、デルが短く肯定する。
「私も貴様と同様、蛮族の中に敬意を払う者がいる事を覚えておく」
オセは振り返ると鋭い目でデルを睨みつけた。だが、その眼は怒りに満ちつつも感情が制御された眼でもあった。
「しかし、貴様が二人の仇である事は変わらない。次に会う時は必ず殺す、覚えておけ」
「俺もお前の事を忘れずに覚えておこう」
オセは一緒に戻って来たオークの力を借りながら、姉のアイムと彼女の武器を馬に乗せると、残った蛮族と共にゲンテの街を出ていった。
デルはオセ達の姿が見えなくなるまで大通りを見つめ続け、最後に大きく息を吐く。
本当にこれで良かったのだろうか。
デルは自分なりの結論を出しながらも、それを部下達にも強制させていないかと不安に挟まれていた。
振り返ると、最後まで付き合わせていた三人の騎士が不安と疲労の顔を見せながら苦笑している。
大きな犠牲だった。
言葉では表せない程に、多くの仲間を失ってしまった。
ゲンテの街を奇襲した騎士の内、戦死が八名。
たった数十人で街を奪還したと言えば大勝利だが、既に銀龍騎士団の九割が戦死、または行方不明である。とてもではないが、奪還した街をこの人数で守り切う事は不可能である。
夜が明け始め、うっすらと東の山脈をなぞる稜線が赤くなる。
デルは、事後処理を終えた後に街を放棄する事を決めた。




