⑦遺される者へ
デルの予想通り、森へ向かっていた蛮族達を率いていたのは、バステト四姉妹のオセだった。
街へと戻って来た彼女が、大通りの中心でデルが抱き抱えているものの正体に気付くと、部隊を停止させて馬から降り、一人で向かって来た。
「………アイム姉さん?」
デルは無言のまま、左右に体を揺らしながら近付いてくるオセを待った。そして目の前に来た所で、ゆっくりと両手を前に差し出し、姉の遺体を引き渡す。
オセはデルから受け取った姉を静かに石畳の上に置くと、彼女の顔を抱きしめながら肩を震わせた。
そしてデルを見上げるように涙をためた瞳で睨み付けると、そのままデルの胸倉を掴んで押し倒す。
「団長っ!」
「お前達は動くな!」
白銀の斧を持っていた騎士が思わず叫んだが、デルは地面に倒されても動揺する事なく、部下の動きを静止させた。
「お前か! またお前が殺したのか!?」
姉妹を二人も殺され、オセは今にもデルの喉を食い千切らんばかりの形相で、顔を近付ける。デルは押し倒された衝撃で一瞬息が詰まったが、何もせずにオセを見つめ続けた。
彼女の体をよく見ると、メイド服の下に包帯が何重にも巻かれていた。恐らく先の戦いでの傷が癒えていないのだろう。デルはオセの前でゆっくりと瞬きをすると、静かに口を開けた。
「ああ。俺が殺した」
「貴様ぁ! 殺してやる!」
オセの右拳が夜空に向かう。さすがに騎士達もデルを助けようと体を動かしたが、デルはそれすらも動くなと静止させる。
「彼女からお前に遺言を預かっている」
オセの動きが止まった。
デルはオセに残った部隊をまとめて本隊と合流する事、そして姉としての最後の言葉を彼女に伝えた。
「………姉さん」
ついにオセの目から涙が溢れ出す。彼女の涙はデルの鎧に雫となって落ち、曲線の鎧をなぞって石畳に流れていく。そして石畳の上に寝かされているアイムの姿を見ると、鼻をすすりながらデルから離れた。
オセは姉を抱きかかえると立ち上がり、そのままの足で彼女が使っていた白銀の斧を騎士から受け取った。
「………何故だ」
オセはデルに背中を見せながら足を止める。
「何故蛮族であるお前達が、そこまでする?」
僅かに横顔を見せる。




