⑤ゲンテの戦い ―決着―
「そんな!? どうしてっ!」
「仕掛けさえ分かれば、何も問題はない」
人間の目は二つの物に焦点を合わせ、同時に等しく見る事ができない。デルは左右に持った長さの異なる剣で攻撃する事で、目で追っていない方の攻撃を主軸に相手に剣を通す事を思いついた。
それは予想通りとなり、デルの攻撃の半分がアイムの魔法障壁を破壊する事に繋がる。
それでもとアイムは炎を纏った斧を振り下ろした。その一撃はデルの速度に追い付けなかったが、炎の斧は地面を円形に砕き、無数の石畳の破片と共に炎を四方八方に撒き散らかした。
周囲の家屋に破片が突き刺さり、さらに炎が家々を囲んでいく。
デルは地面に落ちていた自分の短剣の柄の端を故意に足の裏端で踏みつけた。短剣は、跳ねたボールのように回転し、そのままアイムの横顔の前で障壁と共に砕け散る。
「あと………一枚」
デルはアイムと向き合うと、すぐに彼女の懐に飛び込んだ。
「まだ………まだ私は負けてはいない!」
アイムは鋭い歯をむき出しにしながら、白銀の斧を頭上で振り回す。斧に繋がれている赤い鎖もその流れに同調し、ついには彼女を包み込むように鎖の球体が出来上がる。
「吠えよ! 我が紅蓮の突撃!」
赤い鎖から炎が巻き上がり、巨大な炎の球体の中心に組み込まれたアイムは、そのままデルに向かって飛び込んだ。
デルはアイムとの距離を急速に縮めながら炎の鎖を鋭く睨みつけたまま、左手に持っていた三本の短剣を一本投げ放つ。そして互いに間合いに入ると、アイムは白銀の斧を斜めに振り下ろし、デルは残った片手剣で四度剣線を引いた。
互いに噛み合って動きが止まるアイムの白銀の斧とデルの剣。
「………蛮族相手に」
アイムの胸と腹部には2本の短剣が深々と突き刺さっていた。
デルは先に放った短剣よりも素早く剣撃を彼女に叩き込み、赤い鎖の反応を剣へと向けさせた。その結果、三本の短剣は一枚の障壁を破り、残りの二本が彼女の体に突き刺さったのである。
デルの四回目の剣は、アイムの白銀の斧と噛んでいた。
アイムは口から血を吐き出すと、そのまま後退しながらバランスを崩し、大きな音と共に仰向けに倒れ込む。
大きな音の後の静寂の異変に気付いた騎士と蛮族達が、一斉にデルとアイムの勝敗を悟った。
騎士達は一斉に勝鬨を上げ、蛮族達はアイムを置いて大通りを南に抜け、一斉に東門を目指して逃走していった。




