④王都への帰還
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ウィンフォス王国は、元々大陸の北西を占めていた中堅国家の一つであった。
だが、二百年前に東の平原を抱えていたカデリア王国からの侵攻を受けて戦争が勃発。辛うじて勝利した事でカデリア王国を事実上併呑。その結果、東西に延びた大陸一の大国と成り上がった。戦後初期のカデリア王国の領土は、戦争の爪痕で散々な状態だったが、二百年も経てばその名残を探す方が難しく、今ではカデリア自治領として名を変え、王国の胃袋を支える食糧庫として重要な地を担っている。
デルとバルデックが率いる臨時小隊は馬を走らせ、村から一番近いゲンテの街から、旧カデリア王国の王都だった大都市ブレイダスを経由し、街に入る度に騎士団の屯所で馬を変えながら王都を目指した。
遠征出発時は、三百名を超す騎士達の行軍だった為、片道だけでも約九日の行程だった。しかし、帰りは六日とかからず、王都ウィンフォスの名所の一つである東の大正門へと到着する。
デル達は、王都を守る巨大な大正門に立つ衛兵に所属を告げると、手続きを待つ旅人や商人達の横を抜けて最優先で門を潜り、特例として馬に乗ったまま中央区にある騎士団本部へと向かった。
「団長、おかえりなさい」
「あぁ。早速で悪いが皆の馬も頼む」
デルが馬から降りると、騎士団長の到着に気付いた厩舎当番の騎士候補生達が足早に近付き、彼らから手綱を丁寧に預かった。
道中しっかりと宿で体を休めてきたが、一日十時間以上の移動はかなりの体力と集中力を消耗した。さすがのバルデックや選抜した臨時小隊の騎士達も、馬から降りた途端に姿勢を崩しかけ、眉をひそめたまま疲労の表情が見て取れる。
デルはバルデック達の肩を軽く叩いて回り、彼らを労った。
「かなりの強行軍だったが、皆よく耐えきった。バルデックも初の小隊長任務、ご苦労だったな」
「………は、はい。ありがとうございます」
顎に集まった汗を手の甲で拭いながら、初めて小隊長を任されたバルデックが残った力で声を出し切る。デルは彼の代わりに、部下への休息と本部への待機を命じると、足早に騎士団本部にある騎士総長の執務室を目指した。
「何だ、デル。もう戻っていたのか? 報告の早馬もないままの到着とは聞いて………」
執務室を目指す途中、目的だった騎士総長のシーダインと二階の廊下で偶然にも出会った。既に四十歳を越えているが、それを感じさせない引き締まった筋肉質な体格からは、目の前の人物が年齢を理由に引退する姿が想像できない。
デルは慌てながらも騎士総長に直立で敬礼し、事情を説明する。
「いえ、実は自分自身がその早馬でして」
「ふむ」
騎士総長の目つきが変わると無言のまま腕を前へと流し、デルを執務室へと案内した。