④ゲンテの戦い ―逆転―
デルはアイムの横腹から左手を抜くと、左手と共に真っ赤に染まった短剣を逆手から正位置へと戻す。
彼女の白黒のメイド服が左腹部を中心に変わっていく。アイムは刺された痛みを抑えつつ白銀の斧を大きく振るい、デルを後方へと退けさせた。
「解けたぜ。あんたの鉄壁」
デルは確信をもって口元を緩ませる。
「その赤い鎖、恐らく相手の視線に反応するように出来ているのだろう? だからどんな速さでも、手数でも意味をなさない。どういう仕組みかは知らないが、その鎖自身が持ち主を見る相手の視線に反応して壁を作っていたのさ」
狙いをつける以上、相手は攻撃を行う部位を見る。強敵が相手ならば、視線は重要な読み合いの材料である。
デルの回答に、アイムは険しい顔で睨みつけた。彼女の腹部は既に回復魔法で治癒されていたが、デルはその表情から、自分の考えが正しかったと読み取る。
「どうした。さっきの余裕がなくなってきたぞ?」
自然と剣を持つ力が安定し始める。冒険者時代から味わって来た、立場が逆転する安心感。デルはこの戦いに負ける気がしなくなっていた。
「………全く恐れ入ったわ。そこまで見破られるなんて」
アイムは左手を光らせると、自身の正面に四枚の淡い障壁を発生させる。
「でも、私は負ける訳にはいかないのよ。姉妹と77柱の名に懸けて」
白銀の斧を頭上で回転させ、アイムは改めてデルに切っ先を向けて構えた。
対するデルも、短剣と片手剣を左右に構える。
二人が同時に飛び込んだ。
「唸れ! 我が紅蓮の一撃!」
アイムは白銀の斧に炎を纏わせると、デルの前で大きく下から上へと縦に振るう。斧から放たれた巨大な炎の塊は、渦を巻きながらデルに襲い掛かった。
「遅い!」
デルは右から左の順で石畳を斜線上に蹴り、僅か二歩で巨大な炎の塊を避け、速度を殆ど落とす事なく、再びアイムの正面へと戻る。
デルは右手の片手剣、左手の短剣を交互に振るい、アイムの正面に二枚の鎖の壁を作らせながら同じ枚数の魔法障壁を打ち破った。




