②ゲンテの戦い ―鉄壁の赤鎖―
「残念。それ以上だ」
アイムが振り下ろした先にあったのは二本目の短剣。加えて、デルの声が彼女の右隣から聞こえてくる。
最初にデルが投げた短剣が彼女の振り下ろしで弾かれる。そして僅かな差でアイムの正面、二本目の短剣は鎖の盾が発動した。
「………ほぉ」
本命は、アイムの右側面に回り込んだデルの片手剣による突き。だがこれも、二枚目の赤い鎖が自動的に壁を作り、彼女への攻撃を許さななかった。
「複数の壁も作れるのか。随分と反則じみた道具だなぁ、おぃ!」
「無駄よ。この『紅蓮のアイギス』はあらゆる攻撃から私を守るわ」
先程と同様に、デルの剣を受け止めた鎖の壁が光を放ち、爆炎を生じさせる。
デルは爆発する前に後ろに飛び退け、アイムとの距離を取る。
アイムを守っていた二枚の壁は、糸が切れた人形のように解けると、重力に従った鎖として地面に落ちた。
「今度はこちらの番」
アイムは爪先だけで器用に立つと、白銀の斧を持ちながら体を回転させ、半周を回った所から急激に速度を上げる。
「やっば!」
デルが気が付いた時には、彼女の手から白銀の斧が離れていた。彼は、超重量の斧を紙一重で避けると、斧が背後にあったレンガ造りの建物を貫通させる。
「まだまだ。これからよ!」
さらにアイムは斧と結ばれている赤い鎖を握るとそれを左に払い、糸のように張った白銀の斧を連動させた。
デルは側面から迫る赤い鎖を飛び越えるが、彼女はそのまま鎖を上に払うとそれをすぐに引き、赤い鎖の波を作り出す。まるで鞭のようにしなった赤い鎖は、デルの右の脛当てに当たり爆発した。
「くっ!」
デルもそれに怯まず、左の大腿部に取り付けた短剣を引き抜くと、黒煙を纏って落下する途中で投げ放った。
「器用な奴。でも無駄よ」
放たれた短剣は、アイムが握っている鎖によって弾かれ、そのまま足元へと短剣を落とす。
デルは空中で態勢を立て直し、右足で着地の衝撃を緩和させる。爆発を受けた脛当ては吹き飛んで無くなっていたが、幸い足そのものは無事であった。
「さぁて………いよいよ参ったぞ」
赤い鎖の突破口が見当たらない。
デルは息を少しずつ整えた。
一方のアイムも赤い鎖を強く引き、建物の残骸から飛び上がった斧を手元に戻す。
赤い鎖の防御が破れない。デルが隙を突いても、連続で攻撃しても、赤い鎖はどこからともなくこちらの攻撃に気付き、必要があれば複数の鎖の壁を作り出す。
「何がきっかけになっているのかさえ分かれば」
アイム本人の意思でも命令でもない、さらに手数でも速さでもない。赤い鎖は何を基準にして防御をしているのか、その鉄壁にデルは思わず昔からの相方の事を思い出した。
「………もしもあいつが相手だったら、か」
剣で斬る事も矢で射る事も受け付けない相方にして、『鉄壁』の二つ名を持つタイサに対抗できる手段を考えると、デルは剣を片手にアイムに飛びかかった。




