①ゲンテの戦い ―対アイム戦ー
「各自、役割を果たせ! それだけで戦いに勝てるぞ」
単純に時間が稼げればよい。アイムは部下の蛮族達に対して、冷静に戦うように発破をかける。
「舐めやがって!」
彼女の言葉通り、防御に徹するオーク達の盾と鎧に阻まれ、デル達は、先に進む事ができなかった。
騎士達の動きが止まった事で、後方に控えていた蛮族達が一斉に向かってくる。
このままでは押し潰される。かといって、後方に戦力を分ける余裕もない。
デルは一瞬、言葉に詰まった。
その時、デル達を後方から詰めようと迫ってきた集団の一角が、次々と矢によって倒れていった。
「団長!」
「バルデックか!?」
声のする方向。大通りの二階建ての建物の屋根から、バルデックが弓を持って手を振っていた。彼の隣では他の騎士達も次々と矢を構えて放ち、さらに向かい側の建物の屋根からも騎士達が顔を出し、弓を放っていく。
バルデック達の姿を見たアイムは眉をひそめ、表情を僅かに曇らせている。
「蛮族とはいえ、銀龍騎士団を挟み撃ちにした事を褒めてあげますよ!」
その表情を見逃さなかったバルデックが、階下のアイムに同じ言い方で煽った。
「バルデック、そのまま援護を頼む!」
「了解です!」
デルは後方をバルデックに任せると、正面のオークを睨みつける。
そしてそのまま隣で肩を並べる騎士達に話しかけた。
「お前達―――」
「―――行ってください!」
それだけで全てが通じた。
デルは自慢の足で正面のオークの上を飛び越えると、そのまま奥にいるアイムに向かって剣を振り下ろした。
アイムの赤い鎖は、まるで意志を持った生物のように、彼女の前で蛇行して壁を作り、デルの剣撃を受け止める。
「良いのですか? あなたが抜けては仲間が死んでしまいますよ?」
「お前の方こそ良いのか? オーク達がいなくて随分と寂しいんじゃないか?」
瞬間、盾を作っていたアイムの赤い鎖が光り、炎を上げて爆発する。
「私を愚弄するか、蛮族風情が!」
アイムの声が荒れ狂う。
だが黒煙が晴れると、デルの姿はなかった。同時にアイムの右隣で鎖が壁を作り、デルの横を薙ぐ一撃を防ぐ。
「成程。その鎖は、本人の意思とは関係なく動くようだ」
「………なら、どうしますか?」
アイムは地面と水平にデルを薙ぎ払おうと、白銀の斧で半円を描いた。デルは地面に伏せるように足を開いて姿勢を低くさせると斧はデルの上を通り過ぎ、激しい風が遅れて通過する。
デルは姿勢を低くしたまま左腕につけた短剣を右手で抜くと、それをアイムに向かって投げ放った。
同時にデルの姿がその場から消える。
「さすがに、速い」
アイムは振り終えた斧の勢いを利用し、自身も半回転。背後に動いたデルを追いかけて、そのまま斧を上から下へと両手で振り下ろす軌道に変えた。




