⑫囮
「………ようこそ。蛮族の諸君」
大通りに、両腕に2本の黄色い筋が入った全身黒い毛並みの白黒メイドが立っていた。手には赤い鎖を巻いた白銀の斧。
バステト四姉妹の三人目、77柱のアイムだった。
彼女は予想通りと余裕に満ちた笑みを浮かべると、大通りの建物からゴブリンやオークが次々と姿を現す。蛮族達は大通りに飛び出したデル達を挟む壁となるように前後に陣を作り、それぞれ武器を構えていた。
「囲まれたか」
デルが苦虫を噛んだ表情になる。
騎士達は団長の指示を受けなくとも、蛮族と向かい合うように互いに背中を合わせ、武器を構えた。
だがそこに送られたのは、大きく音を鳴らすアイムの拍手の音だった。
「蛮族とはいえ、貴方達の行動には随分と驚かされました。まさか、あれほどの被害を受けても尚、戦う意思を見せた事。さらにここが手薄になるだろうと予測し、襲撃を実行した事。一見、無謀そうに思えるも、実に理に適った選択です」
自分もそこまで予想していなかったと、彼女が褒め称える。
だが、アイムは右手に持った白銀の斧を軽く横に振ると、後を追うように赤い鎖が曲線を描き、彼女の周囲にじゃらりと独特の音を響かせて落ちていく。
「ですが、やれる事は限られています。大方、この街の司令官を倒そうと向かって来たのでしょう」
ならば、罠を仕掛けて待っているだけで良い。アイムは白銀の斧を肩に乗せた。
「罠だと気付かれないよう、南に向かわせた部隊と森へ向かわせた部隊。どちらもそれほど多くはありませんが、味方が戻ってくるまでの僅かな間、私達が持ち堪えれば貴方達の敗北となります」
アイムの読みは完全にデルの考えを看破していた。彼女の言う通り、陽動の部隊が戻ってくるまでに正面の蛮族を突破し、77柱のアイムを倒さなければ、遅かれ早かれデル達の全滅が確定する。
アイムは自分がこの街の司令官だと、胸に手を置いた。
「シドリー姉さんは既に本隊を連れて出発していますから………さぁさぁ、早く動かないと………この時間は命よりも貴重ですよ?」
「団長!」
「分かっている!」
一人の騎士の声に、デルは剣を空に掲げ、アイムにその先端を向けた。
「突貫する!」
「「「了解!!」」」
全員で攻めるしかない。同じ考えに至ったデルと騎士達は、アイムがいる方向に体を向けると雄叫びと共に走り出した。
アイムが体を向けたまま後ろに下がる。そして、その隙間を埋めるように、全身鎧のオークが壁となって立ちはだかった。




