⑩若かりし姿
「団長の分は、いかがしましょうか」
銀色の騎士装備を一式身に纏い終えた騎士が、見張りを交代すると言い出しながら声を掛けて来た。
デルは自分の剣を鞘から少しだけ引き抜いて刀身を見つめると、すぐに鞘に戻す。
「胸当てと籠手、脛当てを用意してくれ。恐らく弓兵用の装備があるはずだ」
「………弓兵用ですか?」
デルの注文を受けた騎士は首を傾げたが、すぐに倉庫の中へと戻っていった。デルも他の騎士に見張りを交代してもらい、自らも倉庫の中に入ると、倉庫の中の装備や道具を一瞥する。
そして、デルの視線が一つに定まった。
「団長、指示された装備を持ってきました」
「あぁ、済まない。それとそこで山になっている短剣、あと鎧止め用のベルトをあるだけ用意してくれ」
騎士が持ってきた防具を受け取り、デルは慣れた手つきで弓兵用の革の胸当てと脛当て、さらに騎士用の籠手を身に付ける。そして、用意された短剣の刃を確認しながら一本一本を鞘に収め、革のベルトを両足や腕、胸当ての上に巻き付けた。
最後に選んだ短剣を収めた鞘を腰のベルトに取り付けて、デルの準備が終わる。
「団長。その姿は………」
数人の騎士が、見た事もないデルの姿に驚いていた。
デルは弓兵と同程度の軽装に、両肩と両足の大腿部に短剣を二本ずつ、さらに両脇や左右の脛の横にも短剣を身に付けていた。
「完全に再現という訳にはいかなかったが………これが冒険者時代の俺の装備だ」
さらにデルは倉庫の一番下の棚に置いてあった木箱を指さし、騎士達にそれを運び出させた。
「全員この場で毒消しを飲んでおけ。毒状態でなくとも、体内に取り込んでおけば毒の耐性が数時間は残る。さらに余るようなら、鎧の中の服に流し込んで、染み込ませておくんだ」
騎士団では教わらない知識。デルは冒険者としての知恵をここで役立てる。
指示通り、騎士達が毒消し薬を活用する。デルも、部下から薬を一本受け取り、それを一気に飲み干した。原料の草の臭みと苦みを同時に感じつつも、倉庫で冷えた液体が一応の水分補給として喉を潤した。
「準備は良いな? これから、バルデック達と合流する」
デルは全員の準備が終えた事を確認し、屯所を出発する。




