⑦夜を這う
「それでは作戦を説明する」
日が完全に沈み、明かりが灯せない洞窟の中は暗闇に支配される。入口には僅かな月明かりが降ってくるが、森の木々によって十数歩先は闇の世界と化していた。
全ての準備を終えたデル達は、バルデック以下各班の代表のみが集まり、洞窟の入口付近で身振り手振りを加えて、この後の動きについて確認を行う事となった。
「まず第一班から第四班は街への突入部隊として、少数に分かれて草原の中を密かに移動。最も近い東門を目指す。鎧や盾は置いていくから、月明かりの反射でこちらの場所が特定される事もない」
次に、とデルは各班から一名ずつ選出した新規の第五班の名前を出す。
「第五班は、森の奥で設置しておいた全員の鎧の近くで一斉に篝火を焚く。その後はすぐにその場を離れ、元の班に合流しろ」
デルの説明に全員が役割を理解し、静かに頷く。
「敵がこちらの陽動にかかれば、街の戦力はさらに減少する。あとは東門から街へと侵入し、各班で騎士団の屯所、大通り沿いにある武具店で各自必要な防具を調達する。騎士団憲章はこの際気にするな………責任は全て俺が取る。そう心配するな」
本来は騎士は決められた武器と防具のみ装備が法によって許されている。しかし、今回は非常時だとデルは全員に言い聞かせた。
「敵の物資集積所を発見した場合は火を放て。その後は近隣の建物に潜伏し、敵の動きから司令部の位置を割り出す、無理なら、高所に昇って位置を把握する」
そして敵の司令官を討つ。デルは最後にまとめた。
「敵の司令部をいかにして素早く見つけるかが、この作戦の難しい所ですね」
「あぁ。しかも各班は連携が取れるように離れすぎないようにしたい」
バルデックの言葉にデルは頷き、情報不足を承知の上で行動しなければならない事を認める。そして、他に質問がないかとデルが確認すると、全員の目を覗き込むように一瞥して口を開く。
「一千人近くいた銀龍騎士団も、今やたった数日で数十人程になってしまった。俺はお前達にこれ以上の戦死を許さない。いいか、団長命令だ………全員、必ず生きて帰れ」
「「「「了解」」」」
作戦を開始する。デルの言葉で銀龍騎士団最後の戦力が行動を開始した。
―――時間は深夜前。
二つの月は時折雲に隠れ、暗くなる時間と明るくなる時間を交互に繰り返す。
デル達は草陰に分散し、各個の判断で東門を目指し続けた。なるべく背の高い草を選びながら体を沈め、土の匂いを嗅ぎながら定期的に顔を上げて位置と方角を確認する。後続の騎士達も体を土で汚しながら先頭を這って進む仲間を目印にし、息を潜めて街を目指した。
街まで残り十五分の距離。なるべく音を立てないようデル達が緊張と無心の中で進んできたが、次第に息を切らし始める。




