⑤最後の賭け
「これより我々はゲンテの街を奪還する為、蛮族達へ奇襲を行う。我々は既に少数ではあるが、敵もまた王国騎士団の本隊と戦うべく、主力が街から離れているはずだ。敵の指揮官を倒せば十分に活路はある!」
デルが振り上げていた右拳を胸当てに押し付ける。
「これに成功すれば、敵の蛮族達は背後を叩かれ戦意を失う。結果として王国騎士団の本隊を助ける事に繋がるのだ! だが、逆に言えば我々が失敗すれば、本隊は我らと同じ経験をする事になる。それだけは絶対に避けなければならない!」
仮に王国騎士団の本隊が壊滅した場合、王国に残る騎士団は金竜騎士団と『色なし』の下位騎士団のみとなる。『色付き』の騎士団が負けている時点で彼らに勝ち目はなく、その気になれば蛮族達は王国の領土深く侵攻し、最悪王都そのものを失う事も可能になる。
そしてウィンフォス王国は滅亡する。
デルは騎士達に強く語り掛けながら、昨夜フォースィに言われたことを思い出す。
―――何故、オセを切ることを躊躇したのか。
彼女には、デルがオセの首を落とす事を躊躇った様に見えたらしい。
デルはその事を彼女に言われるまで、微塵にも考えた事がなかった。だが戦闘での興奮が冷め、改めて自分の行動を振り返った時、妹の仇が取れず悔し涙を流す少女の首元に剣を置いた自分は、果たして騎士として正しい姿だったのかと自問するようになっていた。
デル達にとっても、蛮族に多くの仲間を殺されている。故に、その仇を討つ事には意味がある。
だがその先はどうか。
きっと、仇の仇を討とうと蛮族の誰かが立ち上がる。それは、永遠に止まる事のない、怨嗟の鎖が出来上がるだけであった。
―――騎士としての正義とは何か。
デルはオセの姉を名乗ったシドリーの言葉を思い出す。そして、彼女の吐いた正義のあり方についての意味が、デルには少し理解できた気がした。
「進も地獄、止まるも地獄。ならば、俺は―――」
立ち止まる事は許されない。自分達の働きに騎士団本隊の運命、そして何よりも忠節を尽くしてきたウィンフォス王国の命運がかかっている。
デルは号令の前に剣を抜き放ち、それを高々と掲げた。
「銀龍騎士団、出陣!」




