②作戦会議
「敵は橋頭保となる地点………補給や物資の運搬がしやすい場所を求めたのではないですか?」
フェルラントが額に手を当てながら答えた。そして地図上のゲンテの街に指を向ける。
「この街には、我々が集めた物資が大量に捨て置かれています!」
「加えると、地元領主が我々に売らせなかった物資もだ」
街一つに残されたあらゆる物資で、蛮族達は数千人分の物資を確保した事になる。
「奴らは、この街にそれだけの物資が集まるのを知っていた。そして、俺達が騎士団を分けた時期を見計らって攻めてきた」
あまりにもタイミングが良すぎる。デルは、自分達の情報が筒抜けだったと確信する。
「そんな馬鹿な………それだけの情報収集力が蛮族達に」
フェルラントが眉をひそめた。
そこへ、デルは人差し指を天井へ向ける。
「空だ………俺も、昨日まで全く気が付かなかったよ」
デルは重傷のオセを運んだ正体が翼をもった亜人、バードマンだったと説明すると、二人はこれまでに何度も鳥らしき姿が自分達の真上、空高くで円を描いていた事を思い出す。
「全く嫌な話だ」
デルが苦い表情になる。そして蛮族からしてみれば、さぞ簡単な任務だっただろうと自嘲気味に鼻を鳴らす。空を飛んでいるだけで、どこから敵が来るのか、物資がどこに集まっているのか、敵の数から陣形まで分かるばかりか、それを妨害する外敵すら存在しない。
「しかし、敵が空から情報を得るのであれば、ゲンテへの襲撃も察知されてしまうのでは?」
「いや、それは解決できる」
バルデックのもっともな疑問にデルが即答すると、フォースィの顔を見る。すると彼女は地図に近付き、ゲンテの街から北東にある森を指した。
「この集落の地下には大きな洞窟があって、その出口がここに通じているの。さすがの彼らもこの洞窟の存在までは知らないはず。知っていたとしても、わざわざここに戦力を裂く事はしないでしょう」
「さらに蛮族達は、これから王国騎士団の本隊と対峙するべく、殆どの戦力を街の外へと向けているはずだ」
これから本隊に向かっても、既に戦いは始まっているだろう、デルはさらにと付け加える。
「仮に我々が戦いの前に合流できたとしても、どこまで信用してもらえるか分からない」
戦ってきた我々ですら未だに信じられないと思っている者が多い。人類が、王国が、蛮族達を単なる低水準の文化を持つ原始的な人種と侮り続けたツケが、ここになって回ってきたのである。
デルは下唇を噛みながら悔しがった。
「………分かりました」
フェルラントは一旦両手で顔を覆うと目頭を強く抑えるように揉み、大きく息を吐きながらデルの提案に賛同する。
「どれも憶測ばかりなので、本来であれば団長を止めなければならない立場なのですが………どうやら、それしかないように思えますなぁ。上手くいけば敵の後方を断ち、間接的に騎士団の本隊を助ける事に繋がります」
大軍同士の戦闘において、補給や退路が断たれる事による心理的負担は決して小さくないと、フェルラントがぬるくなった薬湯を飲み干した。
「我々はどこまでも団長についていきますよ」
バルデックは全部言われてしまいましたと肩をすくめる。
「………皆、すまないな」
デルは自分のコップを持つと、二人に見せるように少し掲げてから、薬湯を飲み干した。




