⑤襲撃
笛の音がどんどんと大きく、高い音へと変わっていく。
デルが倉庫の扉を開けて外へ飛び出ると、そこは既に戦場と化していた。
「敵襲! 敵襲だ!」
見張りについていた騎士の一人が何度も叫びながら、笛を鳴らし続けている。他の騎士達も準備が整った者、間に合わなかった者関係なく、集落に現れた全身鎧を着たオーク達と剣を交わしていた。
「団長! いったい今までどこに!?」
広場で指示を出して走り回っていたバルデックが、倉庫から出てきたデルと目が合う。
「すまない! だが、状況はどうなっている!」
見た所、集落を襲っている蛮族の数はそう多くはない。だがいずれも一回り大きなオークが全身鎧と大盾、そして巨大な大鉄槌を振り回し、複数の騎士と対峙していた。
「つい先ほど、集落の入口から鎧を纏ったオークが十数体侵入してきました。現在はフェルラント副長代理が集落の入口周辺で敵を食い止めていますが、まだ住民達の避難が済んでいません!」
「分かった。俺も前線に行く。バルデックは負傷して動けない騎士と住民の避難誘導を頼む」
「分かりました!」
バルデックは自分の腰に下げていた騎士の剣を鞘ごと外し、丸腰のデルに手渡した。デルはそれをベルトに取り付けると鞘を握り、広場へと一歩を踏み出す。
「………私も行くわ」
肩にかかる黒髪を後ろへと払いながらフォースィが倉庫から現れた。
「いいのか? ちなみに報酬は出ないぞ?」
デルは足を止めて振り返ると両手を広げ、困った顔をつくる。
「構わないわ。貸しにしておくから」
「そう来たか」
好きにしろ、とデルは再び踵を返し、フォースィと共に集落の入口へと走り始めた。
――――――――――
デルとフォースィが集落の広場を抜けると、そこでは戦う事ができる数少ない騎士達と副長代理のフェルラントが、十数体のオークと武器を重ね合い、火花を散らせていた。
騎士の片手剣では、オークが纏う全身鎧や大盾に傷を付けるのが精一杯で、逆にオークが振るう大戦槌に少しでも触れれば、良くて骨折、最悪赤い染みと化す。
デルは腰の鞘から剣を引き抜くと、一番近くにいたオークのが大戦槌を持った腕を振り上げる前に胴体を四度切りつけた。
「駄目か!」
オークの鎧から赤い火花を撒き散らしたが、他の騎士よりも深めに削っただけに終わっている。
オークが低い唸り声から大きな声を吐き出すと同時に、大戦槌が振り下ろされる。だが、デルは横に飛びながら巨体の背後へと回り込み、再度四度切りつけるも、先程と同様に鎧や盾に溝ができるだけに留まった。




