②二百年前 -繋がる記憶-
階段は数分程度続き、それを終えると先程まで板張りの壁だった部屋から、青白い石壁へと姿を変える。壁は綺麗に整えられたものではなく、掘り出し、くり抜いて作った凹凸のある大きな岩によってできていた。
そして二人の前に、左右に分かれる道が現れる。
「こっちよ」
悩む素振りを見せずに、フォースィは右の道を選ぶ。
「左は?」
「そっちは書庫。後で見せるわ」
訳も分からずデルは彼女の後ろを歩き続ける。だがその道も数分と経たずに石の壁が二人の足を止めた。
「おいおい、まさかの行き止まりか?」
「まさか」
フォースィは青白く光る左の壁をさするように何かを探すと、ここだと僅かに凹んでいた場所を押し込む。それと同時に、二人の行く手を遮っていた目の前の岩壁が重い音を立てながら横へとずれ、新しい空間をデル達に見せた。
「さぁ、ここが終点。流石にここはあなたも覚えているのではないかしら」
「ここは………」
数歩踏み出したデルが見たものは巨大な岩の空間。明かりはなく奥行きまでは分からないが、足に当たった石の転がっていく音が遠くまで響くことから、巨大な洞窟のように見える。
デルに十年前の記憶が引き抜かれるように蘇り始めた。
「俺とタイサが探索していた、あの洞窟か!?」
「そう。そして、私が倒れていた場所でもあるわ」
光の届かない天井を見上げるフォースィの横で、ようやく思い出したとデルは何度も額を小突く。
十年前。
盗賊に荷物を奪われたデルとタイサが迷いながら洞窟を探索し続けた先で、冒険者一行が魔物達に襲われていた事、そして唯一の生き残りだった僧侶の少女が倒れていた事。その少女を担いであの集落に辿り着いた流れがここで明確に噛み合った。
「俺達はこの隠し通路を使って、あの集落へ辿り着いたのか………」
だがそこである疑問がデルに生まれる。
「だが………何故この隠された道を俺達は知っていたんだ? いや―――」
何故覚えていないのか。その方がデルにとって問題だった。
「………私が教えて、そして消したからよ」
「消した? どういうことだ………あ、おぃ!」
フォースィは何も答えず、踵を返す。
「………あの時、私はこの集落に荷物を届ける依頼を受けていたわ」
「荷物………食料や医薬品の類か?」
後ろを歩くデルの問いに、フォースィは何も返さない。
そして進んだ先は、デル達が階段を下りた分かれ道。先程選ばなかったもう一方の道を選ぶようにフォースィはまっすぐ進んだ。
彼女が先程書庫と呼んだ場所、その扉の前にデル達が辿り着く。扉は木製だが造りからして頑丈で分厚く、地下だというのにカビや苔の類すら生えていない。




