⑧再来の地
「ここはウィンフォス王国の王族の方々が年に数回訪れる保養地です。集落に名前を付ける事は許されてませんが、王族の方々はここを『再来の地』と呼んでいます」
「再来の地………ですか」
フェルラントが彼女の言葉を繰り返すと、今度はバルデックも会話に入ってくる。
「しかし、二百年前まではここはカデリア王国の領地だったと思うのですが」
―――二百年前。
ウィンフォス王国と隣国のカデリア王国が戦争になり、敗北したカデリア王国の領地は今やウィンフォス王国の自治領と化している。初等科の学校に通っていれば、誰でも学ぶ王国の歴史の一つである。
プラウはバルデックの言葉に反論する事なく、『その通りです』と答えた。
「この地はカデリア王国が滅亡して数年後に作られた場所だと、言い伝えられています」
そこまで歴史ある場所とは知らなかったとバルデックの鼻息が荒くなる。
「その間、二百年もですか………。何というか、言葉にはできませんがすごいですね。あ、もしかしたら、王国に伝わる伝説の武具なんかが保管されていたりして?」
「変な本の読み過ぎだ、バルデック」
プラウは小さく笑っていたが、デルはバルデックに落ち着けと窘める。
デルは一度だけ咳をすると、改めてプラウに向き直った。
「ここがどういう所かは分かっているつもりだ。だから面倒事を起こさず、明日の内に我々は出発する。済まないが一晩だけ世話になる」
デルが頭を小さく下げると、プラウは小さく頷いた。
「こちらとしても皆さんの情報のお陰で外の様子が分かりました。あなた方が出発された後は、集落の者達で警戒する事にします」
カッセル副長達がいた東の集落、そしてゲンテの街が襲われた以上、この集落も十分に狙われる可能性がある。当然この集落の戦力だけでは、魔王軍と称する蛮族達に抗う事は無理だが、デルは敢えてそこまで口にはしなかった。




