⑤森の集落
三十分毎の交代を済ませてデル達は行軍を再開する。
そして道を進む事さらに三時間。太陽が地平線に触れる頃、デル達は目的の森に辿り着いた。
「随分と大きな森ですなぁ」
フェルラントは隣で歩くデルに尋ねるように、そして森の中に入ると物珍しそうに周囲を見渡した。
その場所は樹齢が分からない程に大きく育った木々は星空を隠す天井を作り、半球体状の空間が確保されている。その神秘的な光景にはフェルラントだけでなく、他の騎士達も目を奪われている。まるで自分達が小さな虫になったかの様な錯覚に陥りそうだった。
「ああ、ここには樹齢数千年物の木々が多く残っているらしくてな………おっと、帰ってきたぞ」
デルの話の途中で馬上の斥候が返って来た。
斥候はデルとフェルラントの前で止まると馬を降り、眉をひそめながら見聞きしたことをそのまま報告する。
「団長、この先に五十名程が住んでいると思われる集落を発見しました」
まだ集落があった。その報告にフェルラントや騎士達の表情が明るくなる。
だが、斥候の表情は暗い。
「ですが、余所者は中に入れられない………と。村長を名乗る女性から団長にそう伝えよと言われました」
「我々が王国騎士団だという事は伝えたのに、か?」
「はい、ですが………」
フェルラントのやや感情の籠った声に、斥候の騎士は最後まで言えずに申し訳なさそうに肩を落とした。
「団長、どうしますか?」
騎士達の疲れは限界に達している。食料も水も底を尽き始めており、大きな街まで歩くだけの余力は既にない。場合によっては集落を力づくでもと、フェルラントは直接声にはしなかったが、それを匂わせる言葉でデルに尋ねた。
だが、デルの表情にはそんな考えは微塵もないように肩をすくめる。
「多分そう出てくるだろうとは思っていた………心配ない、俺が直接話を付けに行く」
「団長自らですか?」
フェルラントが眉をひそめたが、デルは何も問題ないと手を左右に振った。
「ここの人達とは………まぁ、知り合いみたいなものだ。入れてもらえるように頼んでくる」
デルは馬の手綱を引くと向きを変える。
「フェルラント。バルデックと共に部隊を少しずつ前進させて来い。それまでには話を付けておく」
手綱を軽く弾き、デルは森の奥へと走っていった。




