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Lost19 銀龍の正義  作者: JHST
第六章 彷徨う者達
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④北へ

 1時間後。休息と治療を終えたデル達は街道を外れて北上を始めた。

 日はまだ南中していないが、快晴の空から降り注ぐ日差しと緩やかな温かい風が騎士達の体力を少しずつ奪っていく。付け加えて街道を外れた為に、膝上や腰までの高さの雑草が生い茂げった中を歩く事になり、草が揺れるごとに小さな虫が視界を飛び回り、運が悪ければ鎧の隙間を縫って入り込む。騎士達は十分に視界を確保する事すらままならない、不快な環境に耐えねばならなかった。


 フェルラント率いる先頭の騎士達が剣を左右に振るいながら物言わぬ緑の壁をならして前進を続ける。後方は負傷者と物資を積んだ馬車をバルデックが率い、デルが中央の騎士達が槍を掲げて馬上から周囲の警戒に努め、蛮族達の奇襲に備える。


「………そういえば本隊は………本隊はまだ無事なんだろうか」

 馬上のデルの近くで騎士の誰かが小さく呟き、その声が耳に入る。呟いた騎士の言葉に、隣にいた騎士が本隊の到着はまだ当分先だろうと疲労の顔で適当に返していた。


「………本隊、か」

 デルの予測では本隊は間もなくブレイダスの街に着く頃だと考えていた。そして蛮族達がゲンテの街を襲撃、占拠した事から、この先の展開をいくつか予測する。

 だがそれも、デルが蛮族達を決して侮ってはいけない相手だと認識しているからこそ思いつく事で、未だに石と木で戦う原始的な集団だと思い込んでいる本隊では思いつくはずがない。


「………急ごう。我々だけが本隊に正しい情報を伝えられる」

 デルは周囲の騎士達に言葉をかけると、何人ものの騎士が一斉に振り返った。

「我が銀龍騎士団は甚大な被害を受けたが、蛮族共が我々の常識を打ち破る力と知恵を備えた存在だと知る事ができた。これを本隊、ひいては王国に報告する事が生き残った我々の任務となった………だから全員で生きて帰り、見てきた事を伝えよう」

 生きて王都に帰る。思い付きでもその言葉が団長であるデルの口から出た事に、今まで生き残った事に後ろめたさを感じていた騎士達の表情が僅かながらに和らいでいく。



 街道を逸れ、草を分けて歩き続けること六時間。

 流石の騎士達も疲労によって呼吸が荒くなり、膝も上がらなくなってきた頃、ようやく緑の壁が終わりを告げて新しい街道へ抜ける。

 街道といっても草むらが刈られている程度の舗装で、馬車の轍跡どころか人の通りもなく、地平線には街の影すら見えない。


 デルは部下達に周囲を警戒させつつ、街道上で騎士達に交代で休息を取るように指示を出した。そして副長代理のフェルラントを呼び出し、再度地図を眺めた。

「団長、私はこの辺りの地理に疎いのでお聞きしたいのですが、教えて頂いた集落まで、あとどのくらいの距離になるでしょうか」

 持って来た地図は大きな街を繋ぐ街道の道は載っているが、今いるような小さな道までは記載されていない。デルはバルデックが持ってきた木製のコップを受け取ると、中に入っていた生暖かい水を僅かに口に含みながら頷いた。


「方向は合っているはずだ。あそこに森が見えるだろう?」

 デルが地図から目を話して東を指さすと、陽炎のようにうっすらと森のような背の高い木々がフェルラントの目に入る。

「このまま道なりに進めば、あの森の中に小さな集落があるはずだ」

「集落………それは本当ですか?」

「少なくとも十年前はあった」

 かつて冒険者としてタイサと共に行動していた時に荷物を奪われ、道中で負傷した僧侶の少女を助けた際に世話になったのだとデルは懐かしむように小さく笑い、未だ半信半疑で眉を潜めているフェルラントに語った。

「とにかく行こう。今の俺達に迷っている時間はない」

 そう言い終え、デルは水を一気に飲み干した。

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