①敗走と潰走
出撃した銀龍騎士団は総勢七百名。最初に出動したカッセル副長らの部隊も合わせるとその数は千に及ぶ。『色付き』の騎士団の中でも比較的平民出の騎士が多く、平民だけでなく理解ある貴族からも尊敬を受け、実力も申し分ないと国中で勇名を馳せていた騎士団だった。
だがデルの目の前に見える騎士の数は、見た事のない光景だった。
「生き残ったのは、たったこれだけか………」
デルは馬の上で体を左右に揺らしながら憔悴しきった騎士達の姿を見て、弱気な言葉が思わず零れた。
バステト姉妹がデルの前から立ち去った後、デルは包囲網を抜けた古参の騎士達と村外れで合流する事ができた。さらに、草原からの奇襲で殿を務めていたフェルラント達とも合流に成功した。
デルは言葉にできる範囲で、前線で起きたことを生き残った部下達に説明すると、フェルラントの提案もあり、バルデックたちが率いる後続部隊と合流すべく、ゲンテの街に戻る事を決めた。
傷付いた騎士達をまとめて移動し、多めに休息を確保して歩く事一晩。日の出と共に最も重症だった騎士の最期を看取ったデルの前に、騎士団の旗を掲げた一団と偶然にも出くわす事となった。
ゲンテの街からやってきた銀龍騎士団の後続である。
正に行幸であった。
デル達は目標の集落で補給するはずだった水や食料の補給が叶わなかった為、また速度を上げる為に野営の類も放棄してしまった為、全員の士気を保つ事が困難になっていた。
デルも含めて、これで温かい食事にありつけると喜んだ騎士達だったが、到着した騎士達を見るや、次々と膝を付いていった。
合流を果たした騎士の数は誰が見ても少なく、馬車もたったの一台だけだった。
デル達と合流できた騎士達は安堵の表情を見せ、数人がその場で座り込む。
「これは、一体どうした事だ」
デルも驚きを隠せない。
「団長………申し訳ありません」
全てを任されていたバルデックが、傷だらけの体とおぼつかない足取りでデルに駆け寄り、その全てを報告する。
―――ゲンテの街が陥落。
騎士としての義務である住民を守る事も、仲間を守る事も叶わず、命からがら街から逃げ伸びたバルデックからその言葉を聞いたデルの衝撃は、下唇を強く噛んで表情こそ隠し通したものの、決して小さくはなかった。




