⑥ハヤサガタリナイ
「………こういう時こそお前の出番だろう」
自然と隣に視線を送るが、デルの隣には誰もいない。
タイサならば二人の攻撃を耐える事が出来るだろう。そしてその隙を縫ってデルの速さが敵を討つ。冒険者として組んだ頃から、この連携で数多くの危機を乗り越えてきただけに、デルにとって相方の不在が口惜しかった。
だがいないものはいない。
デルは肩が上がる程に空気を吸い込み、一瞬溜めて大きく吐き出した。そして剣を持つ右腕をゆっくりと、かつ滑らかに動かしながら、二人の動きを交互に見比べる。
「もっと速く………」
爪先で地面を削るように蹴り出し、デルはオセに剣を振り下ろす。
デルの剣技は二つ名に恥じぬ速さでオセを正面から何度も切りつけるが、彼女の四枚の障壁を破砕し、残りの二撃を、オセと途中から追いついて来たハウラスがそれぞれ白銀の戦斧で受け止める。次にと障壁を失ったオセに再度攻撃を仕掛けるが、ハウラスが正面に割って入り、彼女の四枚の障壁と一度の攻撃が壁の役割を果たす。
後方に下がったオセは、その間に防御魔法で障壁を張り直す。
終わらない戦い、まさに千日手であった。
「もっとだ! もっと速く!」
デルは何度も攻撃を繰り返すが、肝心の七撃目が放てない。
かつては二つ名の通り、一瞬で七撃を繰り出す騎士と謳われていたが、三十歳近い今となっては、最後の一撃が放てなくなっていた。
「無駄無駄無駄ぁ! 俺達姉妹の連携を破れる訳がないだろ!」
オセとハウラスもデルには及ばないが、威力を削り手数の多い攻撃を繰り出してくる。それでも一撃の重さは彼女達に分がある。デルは正面から相手の力を受けないよう、相手の一撃を斜めに構えた剣で滑らせていくが、その度に剣が火花と共に悲鳴を上げ、地面に落ちた戦斧が土を舞い上げ、抉れいく。
一撃でも直撃すれば加護付きの鎧であっても砕け散り、人間の体はそれよりも悲惨なものになる事は間違いない。
「あの頃の速さをっ!」
攻撃の途中、デルがオセに背中を見せるように反転。後方から迫って来たハウラスにも同じ数だけ攻撃を加えた。
同時に割れた二人の障壁は互いに三枚。
「「………っ!?」」
今までの攻撃とは異なる動きに、二人の動きが僅かに鈍った。デルは二人の振り下ろしを潜り抜けるように横へと飛び退ける。
「これで………どうだぁ!」
右肩を前面に押し出し、思い切り腕を振るう。斬撃は七回には至らなかったが、二人の最後の障壁を一枚ずつ破ると、さらにそれぞれの利き腕と肩から反対側の腰へと斬り払った。




