⑤矛と盾
「………防御魔法!?」
「正解!」
今まで蓄えていたオセの力が一気に放出される。彼女が後方から繰り出した半円を描く薙ぎ払いは、咄嗟に構えたデルの盾をまるで乾いた土の様に粉砕させた。騎士団長のみが身に付ける事が許されている装備には物理反射の加護が付加されれていたが、盾は白銀の戦斧と接触したその一瞬だけ青白く光るだけだった。
「くっ!」
薙がれる前に、体を捻ってデルは彼女の一撃を躱す。そのまま彼女の一撃は、延長線上にあった集会所の屋根を、衝撃波で吹き飛ばした。
「まだこれから」
いつの間にかデルの背後に回っていたハウラスが、両足を広げて戦斧を振り下ろした。
デルは剣の腹を自分の顔の前で構えると、激しい火花を散らしながら戦斧の軌道を反らして地面へと誘導させる。そしてデルの代わりに、地面の土を空高く舞い上げた。
「………一撃は大きいが、躱せば隙が出来る」
デルは不利な姿勢のまま右足を軸にして半回転。ハウラスへと体を向けると、彼女の両腕目がけて剣を振るった。腕は切断とまでには至らなかったが、彼女の両腕からは血が噴き出し、黄色い毛を紅く染めていく。その傷の深さは、重量のある武器を振り回す事を困難にさせる。
「あと1人!」
デルはさらに軸足を使って半回転し、オセに改めて目標を定めた。
だが、オセの顔は妹を傷つけられた表情とは程遠かった。
彼女は笑っている。
「まさか!?」
本能的にデルは右に飛び退くと、先程まで立っていた地面の土が舞い上がった。
オセの一撃ではない。デルは振り返ってハウラスを見ると、彼女の腕の出血は既に止まり、傷がほとんど塞がっていた。
「再生………いや違う! クソったれっ! 今度は治癒魔法か!」
ハウラスは右手で自分の左腕の傷を抑えると指の隙間から緑光が放たれ、彼女の残っていた傷が完全になくなっていた。
「ちなみに、俺も使えるぜ」
いつの間にか張り直されていた防御魔法に包まれたオセが、不敵な笑みを見せて笑う。
「重戦士に似合わず速いと思えば、防御に回復魔法とは………こいつぁ参ったな」
いつの間にか二人に前後を取られていたデルは、砕けた盾を固定していた革の紐を解き、役目を終えた装備を地面に捨てる。




