②魔人姉妹
「同じく魔王軍77柱が一柱。四姉妹の末妹、ハウラスよ」
デル達が抜けて来た道、後方から棘のある生意気な声が上がる。ハウラスと名乗った者もまた、オセと同様に斑点こそないが黄色の体毛にメイド服と、見た目は全く同じ猫型の亜人だった。やはり自分よりも遥かに重いであろう白銀の戦斧を下に向けて立っていた。
ハウラスはデル達を見るやフンと鼻息を荒くして顎を突き出す。その勢いで後ろで縛っていた黄金色の細い髪の束が肩にかかる。
「騎士団と言っても大したことないわね。シド姉の心配も行き過ぎかも。さっきの騎士達も………まぁ一匹につき訓練されたオーク数人分ってところかしら。弱くはないけれど、所詮は蛮族ね」
自分の顔の横で指を一回転させると、彼女の背後からゴブリンやオーク達次々と現れ、デル達を中心にして等しく距離を開けた上で包囲を完成させる。
「団長………俺達は一体何を見て、何を聞いているのでしょうか」
騎士の一人が乾いた笑い声を立てて、一筋の汗を落とす。
状況が呑み込めないままだが、デルは止まりかけた思考を無理矢理に働かせ、僅かでも理解しようと努めようとする。
つまるところ、蛮族達はこの二匹の猫メイドをリーダー格として動いており、この集落にいた騎士団だけでなく、つい数分前に殿を務めようと残った古参達も、ハウラスと名乗る亜人によって倒されたと理解する。
するしかなかった。
「俺にも分からん。だが、ふざけた話でも、これが事実だという事くらいは分かる」
デルも思わず笑いたくなった。むしろここまでくると言葉を漏らした騎士と一緒に大声で笑った方が楽になれそうな気がしてきた。
だが騎士団長としてそれはできないと、全身に力を込める。
「お前達、よく聞け」
そして決断する。
「お前達は包囲を突破して逃げろ」
「団長を置いてですか!」「そんなことはできません!」「同感です!」
騎士として入団した以上、敵に背を向ける事は許されない。ましてや団長を見捨てる事など出来るはずもない。生き残った三小隊の隊長が一斉に声を上げた。
デルは彼らの気持ちを汲みとりつつも、一喝する。
「頭を切り替えろ! もしここで俺達が全滅すれば、残ったフェルラント達はどうなる! 彼らだけじゃない、後衛のバルデック達までもがこの状況を知らずに、ここに来るんだぞ!」
状況を把握していない彼らがどうなるか。デルの当たり前の言葉に、古参達は何も言えなかった。
「相手はカッセル程の騎士を一対一で倒す腕前だ。お前達では時間稼ぎにもならん………心意気は嬉しいが、残念な事に、ここは俺が残り、お前達が逃げる選択肢しかない」
団長を見捨てる不名誉を被りながらも、任務を果たす。古参達は空を見上げながら全てを飲み込んだ。
「………分かりました」
「団長も、必ずご無事で」
「勿論だ。結婚したばかりの嫁を喪主にする程、俺は不幸者ではないさ」
互いに小さく笑うと、デルと騎士達は円陣を組み、剣を蛮族達に向けた。




