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Lost19 銀龍の正義  作者: JHST
第四章 蛮族の軍団
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⑧全てが燃える

 前線の集落まであと僅か。既に集落から昇る無数の黒煙は、青空を切り裂く亀裂のように見え、風が吹く向きによって、デル達に焦げた臭いを伝えに来る。


「もう少しだ! 皆、頑張ってくれ!」

 だがデルの声も空しく、全速力で馬を走らせていた最後尾の騎士が、故意に速度を落とし始める。それに呼応して、同じ小隊の騎士が互いに視線を合わせると馬の速度を次々と落としていった。

「団長、先に行ってください! 我々はここで殿と合流して敵の追撃を受け止めます!」

 止まって返事をする事も、引き戻す事もできず、デルはただ笑顔で手を上げる部下を後方に置いていく事しかできなかった。


 残存七小隊、三十六名。


「くそ、あと少し!」

 遂に集落の外縁部に当たる牧場周辺に辿り着く。デルの激しい感情とは裏腹に、牧場の牛や馬は毎日と変わらずに草を咀嚼しながら短い声で鳴いている。


「すみません! 団長、我々はここまでです!」

「どうか、皆をお願いします!」

 さらに馬が限界に達した二小隊が脱落した。小隊の馬全てが力尽きた訳ではないが、仲間を一人置いていく事が出来ず、彼らは小隊単位でデルの下から脱落していく。


 残存五小隊、二十六名。


 もはや援軍とは呼べない数まで減っていた。

 ようやくデルの馬の鼻先が最初の家屋を越える。

 同時に、デル達の馬が限界を迎えて次々と土の上に倒れていった。


「………済まない! よく走ってくれた」

 デルは横になった馬の髪を優しく撫でると、水や食料を馬に積んだまま、辿り着く事が出来た騎士達と共に、武器と盾だけを持って集落の中心へと向かった。


――――――――――


 集落の中心部へと近付く毎に、状況が否応なし五感から伝わってくる。

 西口から突入したデル達はまず中央の水場へと辿り着いた。だが、既にその場所での戦闘は終わっており、おびただしいゴブリンや大型犬と同じ大きさのバウンドドック、さらに猪型の亜人であるオークの巨大な死骸がいくつも横たわっている。


「団長、これは………ゴブリンだけではなかったのですか?」

 デルと共に突入に成功した騎士達が剣と盾を構えながら周囲を警戒し、不安を口にした、中央の水場は蛮族だけでなく、同じ鎧を纏った騎士がそこらに倒れており、どこも血の影を生み出している。東側に設けた即席の障害物(バリケード)は完全に破られ、そこでは蛮族と騎士が折り重なるように朽ちていた。

 どうしたらこれがゴブリンごとき、蛮族の仕業と言えるだろうか。そして、集落に到着してからというものの、生きた仲間と会えていない。デルの思考は、常に最悪な展開を映し続けていた。

「………今は考えても仕方がない、先に進むぞ。全員全周囲警戒を怠るな!」

 デルは腰の剣を抜くと、正面と左右に騎士を展開させ、特に厳重に敷かれた障害物(バリケード)の損壊が大きい北部を目指す事にした。北部には大きな集会所があり、彼がまだこの村に滞在していた際に、祭りなどの行事で住民達が集まる場所だと村長から聞いていた。

 

 村人達が最後に立て籠るならば、そこしかない。デルの足が速くなる。

 途中にあった村長の家は既に焼け落ちており、騎士でも蛮族でもない数人分の焼死体が家の下敷きになっていた。

「最悪だ」

 未だ激しく燃え続ける民家の火の粉と凄惨のな地面の様子にデルは目を細める。

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