①少数精鋭の援軍
「団長、どこに行っていたんですか、探しましたよ!」
デルが屯所に戻ると、入口で待っていたバルデックが慌てて迎えに来た。集合の時間まではまだ少しあったが、団長の姿がなかったために、大分心配させていたらしい。彼から、既に全員が会議室に集合していると報告を受けたデルは、そのまま会議室に向かった。
部屋に入ると、デルは整列している全員の前を通り抜ける。そして、中心で向き合うように振り返るとすぐさま第一声を放った。
「どうやら我々が考えている以上に、事態は逼迫しているようだ」
カッセルからの手紙、さらに教会で得た彼女からの情報を最悪な未来として想定したデルは短く、しかし力を込めるように言葉を放ち、全員の表情を一瞥する。
会議室に集まった三十名近い中隊長、小隊長達。全員が入るには邪魔だった机や椅子は部屋の隅に積み重ねられており、彼らは団長の続きを静かに待った。
デルは続けて、騎士団副長のカッセルから送られてきた手紙の内容を全員に伝える。
既に集落ではゴブリンの襲撃が始まり、その回数が日増しに増えている事。しかも信じがたい事に、蛮族達は長槍を用いて騎馬の突進を迎撃し、少なくない犠牲が騎士達に出ていると話すと、さすがの騎士達も所々からざわめきが生まれた。
デルは軽く手を上げて、部屋の中に静寂を作り出すと、続きを口にする。
「このまま補給物資が届くまで待つ事はできないと判断し、今夜中に少数の部隊で出発。一日でも早く仲間の下へと合流する」
「………今夜中ですか? 急ぐにしても随分と急ですな」
まとめ役のフェルラントが、再びざわつき始めた周囲を代表するように発言した。
デルも騎士達の不安や疑問を理解しつつ、それでも必要な事だと言葉を強める。
「既に十分な行軍速度で進んでいる事は承知しているが、戦闘が激化している以上、前線で奮闘している仲間を放置する事はできない。これから名前を呼ばれた者の隊は、今から一時間の間に、片道二日分の行軍ができる準備を済ませて街の東門に集合、速やかに出発する」
既に準備を終えている野営の撤収等は、残留する騎士達に任せるとデルが伝える。そして、補給物資が届き次第出発し、当初の目的地で合流すると説明した。
デルはバルデックに顔を向ける。
「バルデック、お前が後続部隊の指揮を執れ」
「は、はい!」
まさか自分が呼ばれると思わず、バルデックは裏返りそうな声で、反射的な返事で背筋を伸ばした。
続いて、先発する小隊長の名前が呼ばれていく。
最終的に呼ばれた小隊長は、最古参のフェルラントを含めた十名、デルを含めて五十名程度が選抜された。いずれもデルの銀龍騎士団結成からの精鋭、古参達で、その選出に異議が出る事とはなかった。
「この人数ならば、前線まで一日半の行程で済む。先発する部隊は、到着早々の戦闘を想定し、部下に十分な説明と警戒を促した上で、集合しろ。一時間と待たず、全員が集合次第出発するぞ!」
「解散!」
バルデックの言葉に騎士達は一斉に敬礼し、特に名前を呼ばれた小隊長達は我先にと会議室を後にした。




