⑭繋がり始める細い糸
フォースィは頬を僅かに緩ませた。
「彼らの動きが最近おかしいわ。タイサの報告書は読んだの? ゴブリンと一緒にオークがいた件について」
「………そうか、オークか! 確かに奴らなら長槍くらい作れるはずだ!」
忘れていたとデルは額を強く押さえた。手先が器用なオークならば、騎馬と対抗できる長槍を作る事が可能かもしれない。デルの頭の中で1つの疑問が消化される。
「でもそれだけではないわ」
フォースィはデルに忠告するようにゆっくりと続けた。
「これから戦う彼らは、今までの彼らではないわ。蛮族だと思って戦おうとすると痛い目に合うわよ」
「………どういう事だ? フォースィ、お前何を知っている」
デルの覗き込むような視線に、彼女は唇を舐め、誘うような笑みを零す。
「さぁ? でもかつての戦友として話せる範囲では警告したわ………そうね、私だったら自分よりも賢い敵だと思って戦うわね。それ以上は、自分で考えて頂戴」
そうういう言い方をする時の彼女は、それ以上話そうとしないのは昔から変わっていない。デルもまた彼女の性格を知っていだけにそれ以上は追及せず、軋む椅子に体を預けながら言葉の意味を何度も反芻して考え込んだ。
「………分かった。聞きたい事は山程あるが、お前がそう言うのだから今の内容はあながち嘘ではないのだろう」
デルの中で尚更先発隊を組んだ方針が正しかったと自信に繋がる。同時に、前線で戦っているカッセル達への心配や危機感がさらに高まった。
デルは立ち上がって両足の汚れを叩くと、フォースィの姿を改めて見る。
「貴重な情報をありがとう。できればお前には後衛の部隊の護衛を頼みたい所だが………」
「あら、きちんと報酬を払う依頼なら受けて立つわ」
そう言うと思ったとデルはズボンの両方のポケットに手を入れるが、何も入っていない裏生地を見せつける。
「そうだな。うちの騎士団の物資をいくつか分けるというのはどうだ。どうせまた旅に出るんだろう? お前が知っているか………いや、そんな訳ないか。街の物資は、既にここの領主が買い占めているぞ」
「そうね………考えておくわ」
相変わらずの笑みを見せる彼女の顔を見ると、『それで十分だ』と、デルが踵を返し、教会の出口を目指す。




