⑬紅の修道女
ゲンテの街の外れには古びた廃教会がある。放置された教会は外壁こそ残っているものの、屋根の一部は崩れ落ち、窓のガラスも随分と前になくなっているらしく、窓枠はカビと苔の土壌となっていた。
デルは青い鎧を着た少女に案内され、その教会の中へと入っていく。
「あら、随分と遅かったのね」
誰も祈りを届けなくなった教会の天井からは、月の光が空気中の埃と共に石畳を照らし、触れれば朽ちてしまうような木の長椅子の列が幻想的な風景を作り出している。そんな空間の司教が立つ主祭壇の前で、鮮血のような真紅の神官服を纏った女性が立っていた。
肩に触れる黒髪が服の色と合わさり、修道女でありながら妖美で邪悪な印象を生み出している。さらに彼女の右手が握っている錫杖の上には青銅でつくられた竜の彫刻があしらわれ、一層にその印象を強めている。
「まったく、師匠に似て弟子も下品になるとはな。可哀想に」
デルは女性の姿を見るや、苦笑いをしながら比較的無事な椅子の埃を払って腰かけると堂々と足を組んだ。
少女はデルの横を通り過ぎて赤い修道女の傍に立つと、お使いに帰ってきた子どものように成果を報告する。
「お師匠様、言いつけ通り連れてきました」
「ええ、ありがとう。あなたは周辺に怪しい人が来ないか、警戒して頂戴」「はい!」
真紅の修道女に頭を撫でられた少女は目を輝かせながら、次の指示に従おうと壊れた壁から外へと出ていった。
「下品? とてもいい子じゃない」
「良く言うぜ。あんな言葉を覚えさせておいて」
女性の笑みに、デルは半ば呆れたように両手を開く。
「あんな言葉? ああ………あれね。この前王都でギュードと会った時に、彼があなたの事を話題にしていたのだけれど、違ったのかしら?」
「かなり違うし、誤解もいい所だ。今度俺が奴に合ったら話を付けておく」
デルが強く石畳を踏むと、隣の長椅子が音を立てて崩れ落ちる。
「大丈夫よ。あの子は何の意味か分かってないから」
女性は肩をすくめた。
「そういう事ではないが………まったく相変わらず良い性格してるよ、フォースィ。しかしいつ以来だ? 俺の結婚式には………あぁ、そういえばタイサの奴が最後の方に部屋の隅にお前がいたとか何とか言っていたな」
タイサやギュードと同じく、目の前のフォースィも冒険者時代からの腐れ縁の1人。彼女は冒険者でありながら、流浪の修道女として特定の教会に留まらずに各地を巡礼している。その為、冒険者時代の仲間の中では、中々会えない人間の一人であった。
「そうね。最近では王都にも何日か滞在していたのだけれど、結局あなたやタイサとも会えず仕舞いだったわ」
「何だ、意外と近くにいたのかよ。つれないじゃないか」
会話が異端停まった所でデルから声をかける。
「一体何の用だ? 俺はこう見えても―――」
「あなた達が蛮族と呼ぶ者達の動きについて」
デルの言葉が止まった。




