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Lost19 銀龍の正義  作者: JHST
第三章 不確定要素
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⑦行軍五日目 -不穏の足音-

 手紙は二枚。一枚はタイサが先日討伐した蛮族に関する報告書の写しで、王都の近隣に現れた数匹のゴブリンとそれを指揮していたオークについて書かれている。単一種族で動く事が基本とされる蛮族にしては、オークが共にいた事の珍しさに気が付くものの、過去の事例に全く該当がない訳でもない。

 むしろ2枚目の方がデルの表情を変えさせた。

 それは、タイサの騎士団が王国西部に位置するアリアスの街まで向かうよう命令されたと書かれている。


「そういえば、部屋の前で待っていた彼女は、タイサの騎士団に配属されると言っていたな」

 バイオレット。デルは記憶の隅から単語をかき集めて思い出す。

 本来、新人が入った日は王都内の巡回がてらの慣らし任務と相場が決まっている。しかしながらいきなり王都の外、しかもこの遠征時期に西外れの警備任務となれば、何かしらの意図があるのではとデルの頭の中に疑問が生まれる。

 ただでさえ訳ありの部隊。デルは手紙を開いたまま机に肘をつき、手紙の内容を何度も読み返していた。


 扉から乾いた音が三度鳴る。

『団長、バルデックです』

「入れ、鍵は開いている」

 手紙を封筒にしまい、人が入る前に机の中へとしまう。

 扉がゆっくりと開き、鎧姿のバルデックが現れた。彼は敬礼をしながらデルが鎧を脱いでいることに気付き、申し訳なさそうな目をつくる。

「お休みのところ申し訳ありません」

「………気にするな。むしろまだ鎧を着ていたのか、とお前に言いたいくらいだ」

 デルが右手を振って苦笑する。


「ではこれを渡したら、脱ぐ事にします」

 そう言ってバルデックは二つに折られた紙をデルに見せた。

「カッセル副長からの報告だそうです。つい先ほど早馬が屯所に到着し、こちらを渡しに来ました」

「成程………副長も随分と抜け目がないな」

 騎士団の増援が現地に着く前に、定期的に情報を流しておこうという彼の発想に、デルは自分も気付かなかったと驚き、バルデックから手紙を受け取る。

 お陰で現地に到着してから、情報を一から尋ねなくて済むと報告書を開いた。

「では、私はこれで」


「………待て」

 バルデックが一歩下がった所で、デルが彼を引き留める。


「早馬は現地から来た人間か?」

「いえ、次の宿泊予定の街からです、が」

「ふむ………直接ならば事情を聞こうと思ったが」

 それならば仕方がないと、デルはバルデックを解放する。


 扉が静かに閉められると、デルは預かった手紙を机の上に放ち、再び椅子に腰かけた。

「少数のゴブリンが何度か村の外の茂みに現れては消えていく、か。奴ら、一体何が目的だ?」

 手紙には複数の騎馬で突撃し、村付近に現れた少数の蛮族を撃退したと書かれている。そして、村人には集落の外へ出る事を控えさせていると、最後の数行に補足されていた。当然、現地の対応は間違っていない。

 だが、一連のゴブリンの行動の意図が読めないとデルは口を尖らせる。そもそも蛮族達に人並みの考えがあるのか分からないが、とにかく不気味だという感覚がデルの中に蠢く。


「早馬の行程を逆算すると、この手紙は約三、四日前の出来事だが」

 次の街に着く頃にはまた新しい報告が入るだろう。デルは次の報告を見て考える事を決め、手紙の内容を一番手前の記憶の引き出しに入れておく事にした。

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