③決断
デルは暗闇の森の奥を指すように腕を伸ばし、左から右へと動かした。
「副長の中隊を蛮族がいる集落の左右に展開させ、騎馬で奇襲を掛ける。目についた蛮族達は全て切り伏せて構わない」
森の中で馬を使う事は、その機動力を生かせず、方向転換も困難になる事から用いないのが常道である。だが、馬のような巨体でゴブリン達を一様に動揺させ、その動きを封じる方が有利になると判断したデルの決断だった。
「では人質の方は団長が?」
話が早くて助かると、デルは副長に小さく笑みを見せて頷いた。
「あぁ。副長達の奇襲の後、残った騎士と俺で正面から攻撃をかける。バルデックは俺が飛び出した後の弓兵の指揮を任せる。飛び道具を使いそうな敵や家から出てきた敵を最優先に狙え」
「分かりました。部隊をお預かりします」
この働きでバルデックの小隊長の件を決めようとデルは考えた。そして自身と共に攻勢に出る騎士は、この場で馬を置いていく事、十名程の騎士を馬や荷物の見張りとしてこの場に残す事を決める。
副長のカッセルが敬礼する。
「それでは、出発します」
「あぁ。準備ができたら俺の合図を待たずに動いて構わない」
森の中を騎馬で動く方が慎重さが求められる。副長達が奇襲の準備を終えた頃には、デル達は既に準備を終えているだろう。そこまで説明しなくとも、三人は十分に理解できている。デルの言葉を最後に、カッセルとバルデックは森の中を慌ただしく、しかし静かに行動を開始した。
―――そして十分が経過する。
デルは馬から降りた騎士を二十名程、分散させて配置し、地面から生える植物の高さに視線が合うように中腰のままゆっくりと全身し続ける、
僅かな明かりの揺らぎが、森の葉の間から差し込んで来た。
「………いたぞ」
デルが顔の横の高さまで手を上げると、背後から聞こえていた僅かな物音が一斉に消える。そしてバルデックだけが匍匐しながら前進し、草の根を分けて進んでいく。
そして時間を巻き戻すように匍匐のまま後退してきた彼がデルに報告する。
「村人は全員で二人。全て女性で、拘束されたまま共に焚き火の周囲で座らされています」
数が合わない。襲われた村で聞いた話では五人だったと、眉を潜めるデルが掌を広げて五本の指を立てるが、バルデックは首を左右に振り、それ以上は分からないと無言で答えた。
「止むを得ないか」
下手に時間を掛ければ、焚き火の前の二人が焼かれる可能性もある。それだけは止めなければならないと、デルは覚悟を決めて腰の鞘に手をかけた。