⑥行軍五日目 -事務処理-
行軍行程の五日目。
カデリア自治領に入って三日目の宿泊地となったのは、大都市ブレイダス。かつてのカデリア王国の王都であるが、今では昔以上に活気ある街、そして自治領の中心として栄えている。
デルはこの街に駐留している騎士団の屯所の一室を借り、机の上に置かれた魔導ランプを頼りに今後の予定を一人で考えていた。
騎士達が寝る場所を交代制にして経費を削減しているが、街ごとに準備させている馬の交換と物資調達にかかる費用は馬鹿にできない。この神がかり的な速さを維持する為の代償が経費という、デルに現実的な数字が襲い掛かってきているのである。
「帰りはこの手は使えないな。事務騎士や文官達に殺されかねない」
この街の事務騎士から渡された費用の額面が書かれた紙を参考に、この作戦にかかる総費用を何度も計算し直し、デルは溜息をつきながら頭を振る。この後、金銭管理を行っている王都の事務騎士達の表情を想像すると、寒くもないのにデルの両腕に鳥肌が浮き始める。
かつて昔、この移動方法を乱用していたデルの下に単身執務室に怒鳴りこみ、いきなり胸倉を掴んで来た王城勤務の女性文官の恐怖が思わず蘇った。今でこそ、我が家で静かに生活しているが、決して怒らせてはいけない人物の一人である。
この五日間の行程を、銀龍騎士団は特に大きな支障もなく順調に消化していた。
七百人の騎士団に襲い掛かる盗賊や山賊がいるはずもなく、また蛮族の襲撃もなく姿すら見せてこない。このままの速度で行けば予定通りあと三、四日でカッセル達のいる集落へと辿り着ける。
バルデックとシュベットの関係も見て取れるように良くなっていた。互いに初めての立場に戸惑っていた事を打ち明け合い、部隊がまとまっていればそれで良いとの共通認識を得たようである。
一周回って再び野営を組んでいたバルデックの小隊の三人から密かに報告を聞く事ができ、デルは一安心する。
だがそれとは別に、デルには気がかりな事があった。
「ギュードの奴、一体何を考えているのやら」
背後の扉が閉まっている事を確認し、彼は胸元からしなびた封筒を取り出した。そして封が切られた封筒から何度も読み返してきた手紙を開き、目を通す。




