⑤行軍二日目 -上司は裏で忙しい-
この手の問題は、組織の中ではよくある話である。
小隊長やその下の副長を育てる為、隊の中に隊長経験者や古参を混ぜて、彼らに新任の助言を任せる事が普通であり、常識的な組織管理である。だが一方で、小隊長や小隊副長はかくあるべき、という自身のイメージと力量が噛み合わず、反って古参達と比べてしまい不安に陥いる者が時々出てくる。
デルが視線を横にすると、既にバルデックの小隊の野営はどこの隊よりも早く完成していた。小隊長経験者三人が動けば、自然とそうなるのは当たり前である。
「その不安は、小隊長………バルデックに相談したのか?」
団長であるデルが動けば簡単に解決する悩みだろう。だが、それでは意味がないとデルは一歩引きながらシュベットに尋ねた。
だがシュベットは首を左右に振った。
「いいえ、ただでさえ初めての小隊長に、そこまで負担を掛けたくありません」
「アホか」
思わずデルの口から素の言葉が漏れる。
そしてシュベットに一歩踏み出すと、彼の胸に指を突き付けた。
「初めてだろうが、熟練者だろうが、困った事は隊長にすぐ相談しろ。不安をそのままにして隊全体の士気を下げる方がよっぽど問題だ。お前の真面目な性格は人として評価するが、副長に求められるのは真面目さではなく………あー、ここから先は俺からは言えん!」
部下が効率的に動き、部隊としてまとまっているのならば、それで十分だと言いかけたデルだったが、そこは小隊長が言うべき仕事だと頭を掻き、首を振って誤魔化した。
「と、とにかく、まずはバルデックに相談しろ! それでも解決できないなら俺の所に来い。いいな?」
「は、はい!」
随分と昔、体調が悪いにもかかわらず無理して仕事をしていた騎士をデルは思い出した。その騎士は早い段階で医者に診てもらったり、無理をしてでも一日休みを取れば良かったものを、彼は迷惑をかけられないと言って無理を続け、ついには体調を悪化させて一週間休む羽目になった。
無理をする方が反って周囲に大きな迷惑となる事がある。自分のこだわりや性格と仕事をうまく割り切れる人間が優秀なのである。デルはシュベットに野営を終えた部下達を偉そうに労ってやれと、追い払うようにその場から移動させた。
「今度は、バルデックか………まったく」
相談を聞いてしまった以上は動かざるを得ない。デルは腰に手を当てたまま溜息をつき、小隊長が集まっている場所へと向かった。




