④行軍二日目 -部下の悩み-
「どうした、シュベット。さぼりか?」
「小隊長には言うなよ………って、で、で、デル団長でしたか! ももも申し訳ありません!」
声のする方をだるそうに振り向いたシュベットがデルの顔を見るなり、全身の関節を固まらせて敬礼をする。
「デデデじゃない。デ、は一回だけにしてくれ」
デルは、そんなに驚くなと苦笑しながら腰に手を置き、何をしていたのかと尋ねた。
「は。少し、考え事を」
「考え事?」
シュベットは貴族に似合わず、照れくさそうに首周りを手で擦ると、自分が小隊の副隊長を十分に果たせているのかと小声で漏らし始めた。
「団長が選抜された三人には、全員に小隊長の経験がありますが………私にはそれがありません。それに彼らの動きは、先が分かっているかの様に的確過ぎて、自分が指示を出す必要が全くないのです」
自分は不要なのではないかという不安が日に日に大きくなっている、彼はそう話す。
「なるべく、バルデック小隊長の言葉を漏らさないようにと、真剣に聞いてはいるのですが、どうにも彼らの方が呑み込みが早くて………」
「お前………貴族だよな?」
貴族出身にしては何と情けない姿かと、デルは首を横にしながら、しかし小馬鹿にする訳にもいかず、仕方なく口を開けた。
「いや、人間としてはごく自然な悩みなのだが、貴族はもっと見栄を切る様に意味もなく胸を張るもので………いや、何を言っているんだ俺は」
デルの頭が混乱してきた。彼は指で額を押し付けると、重要な部分のみを引き抜く。
つまり、バルデックが常に不満そうな顔をしていると感じていたシュベットの真意は、バルデック自身に向けられたものではなかったという事である。
「確かに自分は貴族ですが、カッセル副長のように、貴族と騎士を使い分けられるようになりたいと思っています」
「あぁ、それは良いことだ。うん」
デルは何度も瞬きしながら何度も頷いて見せる。
今まで貴族が中心の小隊にいたために、デルは彼の本性を把握しきれていなかった。彼は貴族でありながら、貴族らしくなく、とても不器用な男だったのである。
「つまり、部下よりも動けない事が、副長としての自信を失いかけているという事だな」
デルの要約にシュベットはその通りですと、眉をひそめて項垂れた。




