⑨交差する二人
「タイサ団長。少しよろしいですか」
団長達が部屋を出ていく中、デルはタイサがアイナ王女に呼び止められる姿を見た。他の団長達が一瞬、呼び止められたタイサの方に視線を向けたが、その場に留まる事も出来ず、早々に扉の外へと消えていく。
デルも、タイサが呼ばれた事を気にかけたが、自分自身もまた残る訳にもいかず、団長達の後に続いて会議室を後にした。
部屋を出ると、すぐ横に紫色の髪をした女性騎士が立っていた。
紫色の髪は珍しい。デルは確認をする意味で、彼女に声をかける。
「君は………確か、昨日騎士総長の部屋の前で立っていた騎士か?」
「はい。バイオレット・ウィック三等騎士であります」
デルは、彼女の名前と同じ名の貴族があった事を思い出す。だが、貴族ならば最低でも一等騎士から始めるのが通例である。それが最低階級である三等騎士という身分に疑問をもち、さらに尋ねる。
「失礼だが、名前からするに、君は貴族の家柄か?」
「はい。裕福な家ではありませんが、貴族の身分を王国より頂戴しております。この度、騎士団『盾』の所属になった為、団長に一言御挨拶に参りました」
成程、とデルは納得した。つまるところ、貴族の『訳あり』ということになる。そして騎士団『盾』への入団とくれば、タイサはやっかいごとを押し付けられた事になる。
「失礼ですが、タイサ団長はまだ会議室に?」
今度は彼女の方から尋ねてきた。
「あぁ、まだ奴は………いや、タイサ団長は、王女殿下と話をされている。何の話かは分からないが、扉は開けずに、彼が出てくるのを待っていた方が良いだろう」
デルはバイオレットの姿をもう一度下から上へと見る。身なりは正しく、姿勢も言葉遣いも模範生のようだ。むしろ優秀とさえ思える。
一体何が『訳あり』なのかは知る由もないが、後でタイサ本人から聞いておこうと考えると、デルは意地が悪そうな笑みが自然と零れていた。
「何か?」
「いや、何でもない。騎士団『盾』は下位の騎士団だが、決して優しくはない。心して構えなさい」
表情が漏れた事を誤魔化す為、デルはそれらしい言葉を彼女に送る。バイオレットもデルに感謝の言葉と見事な敬礼で答えると、デルも敬礼で返してその場を離れた。




