⑧茶番
遠征の主力騎士団には、金竜騎士団を除く全ての『色あり』の四個騎士団が充てられた。デルの銀龍騎士団は、先行して味方と合流するとともに、橋頭保となる陣の設営を命じられた。下位の騎士団も輸送や医療衛生等として後方任務が与えられ、最終的な動員数は約八千人に上る。
複数の騎士団で動くと聞いていたデルだったが、予想以上の兵力の投入に、思わず眉を吊り上げた。
東部方面が平地を中心しており、国境と蛮族の森が接する面が多いとはいえ、これほどの大規模の出撃は過去に前例がない。それだけ騎士団ごとの利害を考えなければならないのだろうか、デルは異論を挟む立場にないと考え、何も言わずに腕を組み続けていた。
予想通りタイサの騎士団は、遠征の参加に呼ばれなかった。
デルは腕を組んだままタイサを横目で見たが、相手もその視線に気が付いたのか頬を緩めた笑みで返してきている。向こうは向こうで何を考えているのか大体の想像はつくが、どうせ本人は気にしていないどころか、また家に帰れないなとこちらを小馬鹿にしているかのどちらかだろう。デルは肩をすくめてタイサの無言に答えてやった。
王都の留守居役として、金竜騎士団が選ばれた。
「御命令により、留守居役を務めさせていただきます。出発される全ての騎士団の武運をこの王都より祈っています」
黄金色の鎧を纏った優男が勢いよく立ち上がって、声を上げる。亜麻色の柔らかい髪と高身長、美男であることは間違いないのだろうが、自分よりも下の人間を小馬鹿にするような細く垂れた目は、前団長の兄の生き写しである。
彼自身に直接の恨みはないが、兄と同類というだけで、デルにとっては忌避する理由の一つになっている。
さすがに貴族を中心に構成された騎士団を連れていく事は、騎士総長や宰相、場合によっては王女殿下も慎重になったようだ。自尊心と実力が一致していない貴族を作戦に組み込めば、面倒事は必至で、それを回避する決断は当然とも言える。
本来は功績を立てられる大遠征にも関わらず、団長のイーチャウは不満を吐き出す所か、逆に王都に残る事を誇る様に振る舞っている。デルは、既に彼に話を通していたのだろうと判断した。
騎士総長から、詳細については銀龍騎士団が現地に到着し、そこで得られた情報を基に決定する事を通達し、解散となった。そして、全ての団長達が立ち上がる中、アイナ王女が円卓まで足を運んでくる。
王女はテーブルの前で立ち止まると、団長達の視線を1つ1つ確認するように見回し、凛とした表情で口を開けた。
「クライル宰相とシーダイン騎士総長の両名が言ったように、今回の戦いはかなりの規模である事は言うまでもありません。相手は文化も戦い方も野蛮な者達ですが、油断する事なく、全員生きてまたここに戻ってくることを切に願っています」
王女の言葉に全員がさらに深く頭を下げる。そしてゆっくりと頭を元の高さに戻すと、会議は終了となった。




