⑦団長会議
「本日の議題は蛮族への遠征の件である」
王国騎士団の各騎士団の団長が銀の装飾が施された円卓に座り、司会役として立っている王国の宰相クライルの強気な声に、参加者は様々な感情を秘めながら視線を送っている。
既に蛮族への大規模な討伐は決定事項となっている。デルは先の見えている会議に、やや冷ややかな目をして彼の話を聞いていたが、驚く点が一つあった。それは、銀色の長髪に薄い生地を何枚も重ねたドレス姿の女性が会議に参加していた事である。
―――ウィンフォス王国王女。アイナ・ウィンフォス。
病に伏せがちな国王に代わり、彼女は時々国政に参加し、その才覚を振るっている。彼女がこの場に座っている資格がある事は理解できるが、その目的は分からない。デルは、王女に一瞬の視線を送るも、基本的に腕を組んだまま宰相の言葉に耳を傾ける事に注意を割いた。
「先日、銀龍騎士団からの報告により、カデリア自治領の東方にある四つの集落が蛮族達によって大きな被害を受けている事が確認された。既にこの二年間で地図から消えた集落は大小合わせて十を超えており、我が国の歴史を顧みても異常な事態である事は言うまでもない」
最後に語気を強め、宰相は拳を握りながら団長達一人一人に目を合わせた。
―――王国宰相クライル・バージル。
デルやタイサよりも若く、三十歳前でありながら、王国史上屈指と言われるほどの才を持つ、赤い長髪の男。今では王女の右腕として活躍し、さらには将来の結婚相手とも噂されている人物である。
彼の先祖は二百年前の戦争で、敵国であるカデリア王国側の貴族としてウィンフォス王国と戦った歴史をもつ。だが戦後は、ウィンフォス王国に忠誠を誓い、荒廃したカデリアの地を再建した手腕を認められた事で、ウィンフォス王国の重鎮として迎えられている。
どこまで本当かは分からないが、一説には勇者の仲間だったとも、魔王と戦ったとも言われている。
「陛下はこの事態に酷く悲しみ、そして憂慮されている。そこで王女殿下の名の下、王国騎士団に蛮族討伐の命令が下った」
本当に国王陛下にまで話が通っているのかは定かではない。デルにとって彼の演説は、真偽はともかく、茶番染みており、余り好きではなかった。
だが周囲の団長はやはりそうなったかと、参加する全ての団長が彼の言葉に異論を唱えないまま、ある者は腕を組み、ある者は武勲を立てられると口元を緩ませながら頷いている。
デルはタイサに視線を向けるが、彼は相も変わらず他者の流れに傾倒しない無関心のような、しかし時折眉を潜める程度の表情を貫いていた。
クライルは半歩後退し、円卓に座っている騎士総長の名に敬意を込めて口にする。
「聞いての通りだ」
シーダインが短く声かけると、全員の視線と体が一斉に彼へと集まる。
「今回の遠征は複数の騎士団を伴う過去に例のない規模の作戦となる。目的はカデリア自治領の東方に存在する蛮族達の殲滅、及び奴らの集落の破壊である。既に銀龍騎士団が先の任務で複数の拠点らしき集落を発見している。まずはこれらを襲撃し、破壊する事が当面の目標になるだろう」
そして遠征に参加する騎士団の名前が挙げられていく。




