⑥親友 -同じ目標 異なる方法-
蛮族の活性化。
噂は度々耳にしていたが、今回の遠征でそれが事実であるとデル自身が経験してきた。
今までも、国内で農作物を荒らす程度の事件は度々あったが、ここ一、二年から被害が大きくなり、ついには集落そのものが地図の上から消える事態が起きている。今回の一件も、デル達が解決していなければ、一か月以内に地図から消える集落が追加されていただろう。
二百年程前は、人間が蛮族達と協力して魔王を倒した、世界を救ったという言い伝えや物語がなお地方に残っているが、今となっては蛮族は人間の賊よりも質の悪い武装集団と化しており、王国としても地方領主の対応だけではままならなくなっているのが現状であった。
「最悪、蛮族との戦争か………大勢の人が死ぬな」
タイサの重い言葉に、デルは諦めきれずに同じ話を蒸し返す。
「なぁ、今からでも遅くはない。やっぱりお前がもっと上に………」
「悪いがデル。そこまでだ」
タイサが右手を前に出して遮った。
「俺は、俺のいる所から人々を守りたいんだ。分かってくれ、デル」
互いに人々を守る為という共通の目標を掲げつつも、その方法が異なる二人の信念。
デルは自らが地位を上げる事で、より多くの人々を守ろうとした。一方のタイサは、常に弱者の視点から人々を守ろうと考え、底辺と称される場所に居続けている。これまでデルは、何度もタイサに昇格試験を受けるように迫ったが、目の前の男は困った顔とはぐらかす笑みを見せながら毎年断り続けている。
時には言い争い、喧嘩になる事もあったが、決して2人は袂を分かつ事をしなかった。
「………昔から不器用で頑固だよ。お前は」
デルはそれ以上言わず、腰に手を当てて仕方がない奴だと笑って見せる。
「お互い様だ。今じゃ二人共、三十目前になった中年だ」
「まったくだ。嫌な話ばかりで本当に困る」
「あぁ、まったくだ」
タイサがデルの肩に手を置き、そろそろ急ごうと一緒に会議室を目指した。




