④底辺の隊長と呼ばれた親友
朝風呂を済ませ、自宅から歩く事、約20分。デルは騎士団本部内にある銀龍騎士団の詰所に入った。
「おはようございます。デル団長」
「あぁ、おはよう」
詰所の事務室で作業していた数人の事務騎士や騎士見習いが、扉を開けたデルの姿を見ると、全員が立ち上がって敬礼をする。
その中には、昨晩遅くまで残っていた事務騎士の青年が見てとれた。彼は今にも泣き出しそうな顔でデルを見ていたが、当の本人は彼の表情に気が付かない振りをして視線を逸らすと彼らに敬礼を返し、肩をすぼめながら歩き出し、自分の執務室の扉に手をかけた。
「後で、差し入れでも用意しておこう」
あの青年への言葉を考えながら執務室に入ったデルは、昨日と同じコートをいつもの場所にかけ、代わりに黒銀に磨かれた騎士団長の鎧に手を伸ばして、正装に着替える。
予定されている団長会議は一時間後。デルは鎧に頭を通しながら、机の上に置かれている新しい書類に目を通す。だがそのどれもが急ぎの案件ではない為、二、三枚だけ署名を施して仕事をした振りを済ませると、着替えに集中した。
最後に灰色のマントを鎧の留め具で押さえ付け、準備が完了する。
「よし」
執務室から出たデルは、朝から勤勉な事務騎士達に対して、午前中は会議で戻って来られない旨を伝え、団長会議が行われる王城の第三会議室へと向かった。
団長会議は基本三十日に一度、王城にて定期的に開かれる。だが、今回のように不定期に招集がかかる事が稀にあり、その場合は内外を問わず、重大な事件や事態が起きた事を暗に意味する事が多い。
この会議に召集されている団長達は、恐らく後者だろうと読んで会議室に向かっているに違いない。デルは騎士団本部から王城に繋がる一階の渡り廊下を進んだ。
途中ですれ違う騎士や武官達と敬礼をしながら進んでいくと、王城の三階にある会議室に繋がる階段の前で、貧乏くさそうな騎士の姿をデルが捉える。
「お、タイサじゃないか!」
「デルか? 何だ、もう遠征から帰って来たのか」
デルの声にタイサも気が付き、大人気なく手を大きく振っている。
二人は再会を喜び、互いに拳を突き付け合った。昨日会えなかっただけに、デルの喜びが大きくなる。
「相変わらずボロ屋暮らしか? いい加減身の丈に合った家を買えって」
「朝じゃぁギュードにも似たようなことを言われたよ。お前こそ新婚なんだから少しは家に帰ってやれよな」
タイサの相変わらずな調子に、デルは小さく笑った。
ギュードとは、この王都の冒険者ギルドで情報屋として活動している冒険者の名前である。タイサと同じく冒険者時代から色々な意味で随分と世話になっている男でもある。タイサは朝から彼と会っていたようだが、デルはそれ以上詮索する事を避けた。




