⑥上司と部下
シーダインは机の引き出しから新しい羊皮紙を取り出すと、万年筆を手に取って公文書を作成し、最後に自身の署名を施すとそれをデルに手渡した。
「銀龍騎士団が再遠征に使う追加物資の許可証だ、先に渡しておく。俺はこれからクライル宰相の執務室に行って、この件を説明してくる。順当に行けば、本日中に団長会議の案内が各団長に届けられ、明日には会議が開かれるだろう。急な事ゆえ全員出席とはいかないが、この際仕方あるまい」
「………分かりました。その間に、王都で待機している銀龍騎士団の招集と再遠征に向けた物資の調達に務めます」
王国騎士団の団長以上が出席する団長会議。そこで遠征の詳細が決定してから王都の出発までには部隊の招集と物資の準備に、各騎士団は二、三日を要する。そして大規模な進軍となれば、副長のカッセルが待つ村までの道のりは、九日から十日程度の見通しになる。
「本隊の出発は、早くて明後日以降になるだろう。が、銀龍騎士団には案内を含め先発隊となってもらう。出発前に部下達をしっかりと休ませておくと良いだろう」
「ご配慮ありがとうございます」
騎士総長の気遣いを受けつつ、デルは他に伝えておく事がないかを再度頭の中で点検する。
「お前もしっかりと休んでおけよ? カミさんは大事にしないとな」
「え、えぇ。恐れ入ります」
まさか自分の事を言われるとは思わず、デルは苦笑いしつつ、ややたじろいだ。
デルは昨年結婚し、その式では騎士総長に仲人を務めてもらっている。その本人は、デルの表情を見て盛大に笑い、デルは照れ隠しに後頭部に手を置いた。
「それでは、失礼します」
穏やかな雰囲気を残したまま、デルは敬礼して執務室を後にする。
扉を開けると、先程の紫の髪の女性騎士がまだ立っていた。彼女はデルに敬礼をすると、代わるように執務室へと入っていく。
「あの身なり………どこかの貴族か?」
貴族出身の騎士は自分の騎士団にも数多くいる。デルはそれ程気にする事なく、バルデック達の下へと向かった。




