①二人の冒険者
―――食料も水もない。
何をどうしてこうなってしまったのか。冒険者として、ようやく安定して稼げるようになってきたデルは、天井の見えない洞窟を見上げながら、一瞬の油断を何度も後悔する。
「あのコソ泥め。見つけたら逆に身ぐるみを剥いで、ゴブリンの群れに投げ込んでやる!」
足元にあった適当な石を蹴り飛ばし、コソ泥を追いかけた相方が戻ってくるまでの時間を潰す。松明の明かりも届かない程に広い空間では、時間の進み具合がとても遅いように感じられた。
自分の感情を自分なりに抑えながら、時には散らして待つ事数分。
その相方が洞窟の奥から戻って来る。
「いやぁ、駄目だな。すまん、すぐに見失って………しまった」
相方の軽い言葉に、眉をひそめるデルが無意識に感情の籠った声を出す。
「お前………あの荷袋には食料も水も、必要な物が全部入っているんだぞ?」
硬さだけが取り柄の相方に任せたのが失敗だったと、デルは手のひらで顔を覆うと、指の隙間から溜息を盛大に漏らした。
「まぁ、なぁ………」
面目ないと、黒髪を掻いて苦笑する相方。
だが元を正せば、休憩がてら荷物から目を離した自分が悪い。それが分かっているだけに、デルは追いかけようと動いてくれた相方をそれ以上詰める事はできなかった。さらに言えば、他人の失態を分かっていても、それが故意でない限り、決して相手を非難しようとしない相方の優しさには頭が下がる思いだ。
「………元はと言えば俺の不注意だからな」
これである。デルは苦笑するしかなかった。
デルは相方の優しさに我慢できず、自分のミスだと小さく零す。それでも相方は苦笑いしながら『ある物で何とかしよう』と前向きの姿勢をつくって、肩をすくめている。
相方と共に冒険者として出発して間もなく一年が経とうとしているが、偶然組んだ相方をデルは心の底から感心していた。時折、人の良さから犯人に間違われる事も騙される事もあったが、それでもデルは目の前の男が信頼に値する人間だと思っている。
「そうだな。ま、取り合えず手持ちの荷物で、この洞窟から出る方法を探すとしようか、タイサ」
「ああその意気だ。生き残ったら、街で旨い飯をたらふく食べるぞ。もちろんお前の奢りだからな、デル」
優しい男だが、許してもらう為には対価が必要だったらしい。デルは今更断る事ができず、乾いた笑いを見せながら互いに拳を合わせた。