1話 パンツ、出会い
ペチッ、ペチッ、ペチッ、ペチッ
コンクリートやアスファルトを素足で走る音が町に響く。
「? !! キャァァァァァ!!!!」
「おいっ! あれ見ろよ!」
「マジかよ…」
足音の主の青年を見て、悲鳴、嘲笑、様々な声が飛び交う。
「おちんちん!!! おちんちん電車ガタンゴトン!! おちんちんドラゴンブゥゥゥン!!」
豪快に下ネタを発しているだけならまだ良かったのかもしれない。しかし、青年は一糸まとわぬ生まれたままの姿で元気に町を走り回っていた。
「お、おいあんた! あぶねぇぞ!!」
1人の男が声を荒げる、しかし青年には届かない。
青年は全速力で交差点に突っ込んでいく。
バァァァァン!!!
車と接触し、大きな音と共に青年が大きく吹き飛ぶ。
「キャァァァァァァァァ!!!」
「お、おい… マジかよ…」
今度は別の悲鳴が響く。
「(はぁ…クッソ… 酔いが覚めてきやがった… 何やってんだ… 俺… 疲れた日にやけ酒なんてキメるんじゃ無かった。 クソブラック企業が… 絶対に呪ってやる… ハハ… まぁ、最後はなんか自由だった気がする…何してたかあんまり覚えてないけど…)」
青年が手遅れになった時にようやく頭が晴れる。
冬の夜、アスファルトが凍るように冷たい。 しかし、感じているのは寒さではなく暑さだった。
「(暑い。 全身が痛い。 外と死ぬときって怖くないんだな…すっげぇ冷静だ… あぁ…なんか違和感あると思ったら… 俺…今全裸か…)」
騒がしい周り中から パシャッ という音が聞こえる。
音のする方を見てみると女性がスマホをこっちに向けている。顔はよく見えない。
「(クソ… コンタクト付けてないのか… よく見えない… オイ…クソアマ… 何写真撮ってんだ… あぁ…そろそろか… なんか眠く…)」
青年の意識がどんどん沈んでいく、、、、、、、
家族、友人、クソ上司、色々な人の顔が浮かんでは消えていく。
あれからどれくらい時間が経ったのだろうか。
「お、おい! 母さん! 遂に…! 遂にディノが…! ディノが俺をお父さんって呼んだぞぉぉぉ!!!」
「まぁ!本当に!?」
騒がしい大人達の声で意識がハッキリとしてくる。
「(あ? なんだ?)」
状況の整理ができずに困惑していると大人達が話しかけてくる。
「ほら!ディノ! お父さんだよ!お父さん! もう一回言ってくれ!」
「ディノ! お母さん! はい! お母さん!」
「(あ…? なんだ? ディノ…? 俺の名前か…? 他は…何言ってるか分かんねぇな… マネしとくか…) お…お父さん… お母さん…」
どこの言語かは不明だが、とりあえず声に出してみる。
「そう!俺がお父さんだ! ディノ!」
「私がお母さんよ! ディノ!」
「(あ〜 なんか喜んでんな。 返しは合ってたみたいだ。 さて、ここはどこだ。)」
興奮して次々話しかけてくる大人達の事を無視してとりあえず周りを観察してみる。
「(俺、声高いし、手ちっちゃいな。 目も裸眼だけどよく見える。 まだガキなのかな。)」
「ディノ! ほら! もう一回言ってくれよ! お父さん!」
「お母さん! お母さんよ!!」
「(この人達の話してる言語は少なくとも英語じゃないな。 俺がただ知らない言語なのかな。 服装は、明らかに現代人ではないな。)」
部屋をじっくりと観察する。
「(天井の灯りがよく見る照明じゃない。 変な結晶のような物から光りが出てる。 壁には剣に杖…?みたいなのが飾ってある。 家も見渡す限りかなり昔の家といった感じだな。 壁とか天井、木材むき出しだし。 今俺が座ってる椅子も完全な木製だ。 俺はどこへ来てしまったのだろうか。)」
「ディノ! 見てくれ! 父さんの魔法だ!凄いだろ!」
しつこく話しかけてくる大人の片方が何か喋ると、手をディノの目の前へと近づけ、手のひらから小さな炎を出してみせる。
「(なんだこれ、手品か?)」
ぼーっと見つめていると、困り顔をしながら手のひらの炎を消す。
「あれ…? 反応薄いな…」
「あらあら、じゃあこれはどう?」
もう片方の大人が近づき、またしてもディノの前へ手を近づける。 すると、大人の顔と同じくらいの水の玉をゆっくり作り出す。
「(うわっ!! なんだこれ!?!?!?)」
ゆっくりと短い手を伸ばし、玉に触れてみる。
「(本物の…水!?)」
どんどん目が丸くなっていくのを見て、大人達が嬉しそうに笑う。
「(まさか… 魔法…!? すげぇ…)」
なんとなく状況が読めてくる。
「(ここって… まさか異世界ってやつなのか!? 俺は転生したのか!? 夢…じゃないよな? 俺が今触っている水の玉からは間違いなく冷たさを感じているし、水の感触がする。 さっきあの人が出してた炎も温かかった。)」
「(この世界では上手くやっていけるだろうか…………)」
不安ながらも2度目の人生が始まる。
───5年後───
「行ってきまーす」
昼下がり、母に一声かけ外へ飛び出す。
「気をつけるのよ〜 ディノ〜」
「は〜い(この世界にも結構慣れてきたな〜)」
この世界に転生し、物心がついて5年が経ち、少しこれまでのことを振り返ってみる。
(どうやらこの世界には魔法があり、魔法がこの世界をあらゆる面でかなり支えている。その為、この国【ロエド】では様々な魔法が使える者はかなり重宝されており、いわゆるエリートに分類されるそうだ。
俺も特にやりたいことが無かったので、父と母から魔法に関する本を借りて、森の中で魔法の練習をしているが、これがかなり新鮮で楽しい。元いた世界では絶対に味わえない感覚だ。
この世界では7歳になると学校へ入り、様々なことを同世代の子供達と学べる。もちろん魔法もだ。
俺の場合は中央都市「レプエウデ」と言う名前の、日本で言うところの東京のような場所にある学校が一番近いらしく、半年もすればそこに入学だ。
俺が今住んでいる家は都市から離れた山の中にあり、集落も無く、人もあまり来ない為、この世界の住人は父と母以外あまり会ったことはない。だから学校へ入り、この世界の色々な人と関わるのが少し楽しみだ。)
「半年もすれば俺も学生か〜 どんなこと学べるのかな〜」
これまでのことを振り返りながらしばらく走っていると、いつも魔法を練習している森の開けた場所に着く。
「よし、今日もやるか。目指すはエリートだな。」
父と母から借りた本を開き、全てのページを捲る。
「ん〜どれも結構試したし、そろそろ新しい知識が欲しいな… でも家にはもう魔法に関する本は無いし…」
他に魔法を学べる方法はないか少し考える。
「うちは貧乏だからなぁ… 先生なんて雇うお金は無いだろうし、父さんも母さんも魔法はあんまり使えないって言ってたし… ………とりあえず今使える魔法の威力を上げたり、組み合わせたり色々試してみようかな。」
ゆっくりと空に右手を向ける。
「(集中…集中…)」
魔力をゆっくりと溜める。
「よっ!!」
右手から巨大な風の玉が空に向かい発射され、周りの草や木を激しく揺らす。
「1回で出せる威力がこれが限界か… 最初よりはかなり良くなったけどもう少し威力が欲しいよな。
さて、次は〜っと。」
今度は両手を空に向ける。
「(それぞれの手で別のイメージ…)」
右手、左手両方に魔力が集まる。
「ふっ!!!」
右手からは風、左手からは水が発射される。
発射された風と水は途中で交わり、辺りに激しく水飛沫が散る。
「うん、両手から別の魔法を出すのもかなり上手くなってきたな。
威力は…まだまだだけど…
威力を維持したまま出せるようになればかなり便利だし、父さんも「別々の魔法が同時に使える人は珍しい」って言ってたし、 ……頑張るか!」
───数時間後───
「よし、今日はこんなもんだろ。」
空に向かってひたすら魔法を撃ち続け、魔力もほぼ底をついた。
「やれることはかなりやったし、そろそろ新しい魔法を学ぶ方法を考えないとな〜 半年もすれば学校に入るし、それまでの間できることがあればいいんだけど… とりあえず帰ったら父さんと母さんに相談しよっかな。」
そんな事を考えていると、気がつけば日も落ち、周りも暗くなってきている。
「やべ、ちょっと急ぐか!」
日が落ちる前に家に向かって走り出す。
「ハッ、ハッ、ハッ、 ん?」
帰っている途中、ふと横を見ると、暗い森の中で少々光が漏れている場所があった。
「(なんだろう? 人が居るのかな?)」
かなり日が落ちてきているが、好奇心が大きくなり、少しだけ覗いてみることにする。
草の中に隠れながら近づき、様子を伺う。
「○○○○様○…○○を…○○が…○○○○○の…」
やはり人が居た。よく見ると、光源を囲み膝立ちで何か礼拝(?)のような事をしているようだ。
「(光ってるのは…光魔法の灯りかな? それにしても、どの世界にも宗教ってあるんだ……ん!?!?)」
よく見ると、男性で服を着ておらず、代わりにブラジャーを頭に巻いていた。もちろん、【ご立派様】は一切隠れていない。
「(なんだあれ!? 変態!? いや…俺も昔酔って全裸で公道走って死んだから人のことはあんまり言えないけど… てか、そういう宗教の可能性も… いやそんなわけないだろ!?)」
ガサッ
驚いてしまったせいで、ディノが少し物音を立ててしまう。
「誰だァァァァァ!!!!」
怒号を上げ、ご立派様を激しく揺らしながら男がこちらに走ってくる。
「助けてくれぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
こちらも大声を出しながら必死に逃げる。
「(絶対ヤバイ奴だっ!! やっちまった! 助けを求めても無駄か!? 山の中全然人居ないし! ここから家まではおよそ1キロくらいか!? 間に合うか!?)助けてくれぇぇぇぇ!!」
相手は大人、こちらは子供。このまま走っていてもすぐに追いつかれる。と言うかもうすぐに追いつかれそうなところまで迫っている。
「捕まえたぞガキィ!!!」
とうとう追いつかれ、襟を掴まれてしまう。
「何もしてないです! 許して下さい!」
「うるせぇ!! 邪魔しがって!! ここで殺す!!」
対話を試みるが、やはり意味がなかった。
「(クソ… 人間相手には使ったことないが… 何させるか分からねぇし… やるしかねぇ…!)」
男の前に手を構える。
「おらァァァァァァ!!!!!」
今出せるだけの最大火力で風魔法を出す。
「チッ!」
男が不意を突かれ、少し吹き飛ぶ。
なんとか男を突き放すくらいの威力は出たが、さっきまで魔法を使っていたせいで、思っていたよりも全然威力が出ない。
「(もう魔力はほぼ残ってない… いざという時まで温存しておきたかったが、ダメだったか…!)」
体勢を立て直し再び自宅へと走り出す。
「(今の魔力量で最大限効果があるのは… これだな…!)」
空へ手を構え、小さな光源を作り、発射する。
「(光魔法! 暗い森の中だ! これならもしかしたら誰か見つけてくれるかもしれない…! これが本当に最後の望みだな…)」
すると、後ろから音が聞こえる。風のような音だ。
振り返ると男が風魔法で飛びながら、凄い速さでこちらへ接近してきていた。
「灰になっとけぇぇぇぇぇ!!!」
男が右手に魔力を溜め始める。
「(あれを喰らうとまずいっ!!!)」
直感ですぐ横の茂みへと飛び込む。
するとすぐ後ろが明るくなると共に背中に強烈な灼熱感を覚える。
「熱っ!!!!」
茂みの先は坂になっており、そのまま転げ落ちていく。
「うぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
バシャンッ
転がった先はには浅い川があり、水飛沫を上げながら川に落ちる。
「イテテテ… よいしょっ… イテッ!!」
立ち上がろうとするも、足が痛くて立ち上がれない。
「(クソ…転がってる時に変にぶつけたか… 背中も死ぬほど痛い… 火傷したか…)」
ザッ、ザッ、ザッ、
転がってきた所から足音が近づいてくる。
「終わりだな、ガキ。」
男がゆっくりと姿を現す。
「(はぁ…転生して、また1からやり直せると思ったのに、ここでも若くして死ぬのかよ。 神様なんて居なかったか… 前の人生も酷かった。 頑張ったのに、いい大学に入ったのに、ブラック企業を見抜けずに入社、サービス残業、休日出勤は当たり前、結局ストレスで酒キメすぎて全裸で走り回って車にひかれてお陀仏。 ツイてないねぇ……じゃねぇよ!!!)」
ディノがゆっくりと手を男に向ける。
「(今度はブラを被った全裸の変態に追いかけ回されて死ぬ? ふざけんなよ! バカにするのも大概にしやがれ! なんの為に生まれ変わった! なんの為にここまで魔法を練習した! 今度こそはまともな人生送って後悔無く安らかに死ぬ為だろうが!! ふざけた変態に負けてたまるかよ!! 最後まで足掻いてやるぞ! 絶対になぁぁぁ!!!!!)」
「もらっとけぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
残った力を振り絞りディノが火を放つ。 しかし、男に届く前に火は完全に尽きてしまった。
「(魔力切れか… まだだ!!)助けてくれぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」
渾身の叫びを静かな森に響かせる。
「死ね。」
男がディノに手を向け、魔力を溜め始める。
「はぁ… 最後にちょっといいか?」
ディノが男に話かける。
「………短い人生の最後だ。 少しだけなら聞いてやる。」
意外な反応にディノの目が少し丸くなる。
「(あれ…? 聞いてくれるのか? 最後くらいバカやるか)」
「アンタ、ちっさいな」
男が眉をひそめる。
「は?何がだよ」
「決まってんだろ… ち◯ぽだよ」
男の顔が不機嫌そうになる。
「は? ちっさくねぇよ。」
「いやいや、ちっさいって」
「いやいや、こんなもんだって。」
「いーや、ちっさいね」
「いやいや、お前も大人になれば分かる。 意外とこんなもんなんだよ。 まぁ、大人になんてなれねぇけどな。 俺が今から殺すから。」
ディノが少しニヤける。
「オイオイ! まーさか!! そんなちっっっっさぁぁぁいモノ見られたのがそんなに恥ずかしいか!? ブラを被った変態よ!! 俺の小指よりもちっっっさいんじゃないのか? そ〜んなしょ〜もないものを隠さずに堂々と居られるなんて、羨ましいねぇ!!」
男の顔がどんどん怖くなっていく。
「(さて… 殺させる時が来たか…)」
ディノが覚悟を決めて、男を見つめる。
「(絶対忘れねぇからなぁ! また生まれ変わってぶっ殺してやる!!!)」
「酷いよぉぉぉぉ!!!!」
男が突然、子どものように泣き始める。あまりの出来事にディノも開いた口が塞がらなくなる。
「なんでそんな酷いこというのぉ!? そんな酷いこと言われたの生まれてはじめてだよぉ!! うァァァァァァァァァァァァん!!!!!」
「(え… なに… キモ…)」
ブラを被った全裸の男が鼻水を垂らしながら泣いている。酷い光景だ。
「そんな酷いこと言う子は! 早く死んじゃぇぇ!!」
男が鼻水と涙でビチャビチャな手をディノに向ける。
「汚ぇぇっ!!!!」
「死ーんーじゃーえぇ!!!」
男が巨大な火の玉を発射する。
「(ここまでか…!!)」
ディノが目を閉じ、その時を待つ。
「(次生まれ変わったら…もっと上手くやらなきゃな… 次なんて無いかもしれないけど…)」
拳を握りしめ、歯を食いしばる。 どんどん正面が熱くなっていくのを感じる。
「(これ、直撃したら丸焦げだなこりゃ… 父さんと母さんは死体が俺だって分かるかな… 親孝行できなくてごめんな…)」
それからどれくらい経っただろうか、無限にも思える時間の中、ディノの鼓膜が急に激しく震えだす。
シャァァァァァァァァァァン!!!
大きな音と共に周りが一気に冷気に包まれる。
「ッ!!」
ディノが目をゆっくりと開けると、目の前には大きな氷の壁がそびえ立っていた。
パシャ、パシャ、パシャ。
後ろから誰か近づいてくる音がする。
「あ、あの! ありがとうございまっ…」
ディノが振り返りながら礼を言おうとするも言葉が詰まってしまう。
ディノの目には1人の老いた男が映っていた。
ただし、ただの老人ではない。
全裸だ。 ただし、ただの全裸と言うわけでもない。
「(おいおい今度は…)」
老人の頭に
「(パンツかよ…)」
女性モノのパンツ、いわるゆパンティーがあたかもそこにあるのが当たり前かのように装着されていた。




