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第五話 マレー沖海戦勃発(3)

「最上から入電!敵レパルスを魚雷にて撃沈するも、三隈も爆沈につき駆逐艦に救助命令、他の残存戦力は本隊との合流を目指すとのこと!敵キングジョージ、ネルソンにも魚雷の命中有!」


先ほど目に映ったとてつもない爆発に、三隈には相当の被害が出ていることは覚悟していたが、爆沈という表現をされるほどに壮絶な被害が起きていたらしい。


「そうか・・・崎谷大佐も無事であればいいのだが・・・。」


そうして若干の沈黙が流れたのも束の間、金剛の天楼から怒号が伝わってくる。


「11時方向敵航空隊!凡そ30!」


数的には恐らく後方にいる敵機動艦隊の攻撃隊だろう。

相模が危惧したことか、第五戦隊に水雷戦隊は引き連れさせており、主力部隊には護衛艦艇がいなかった。

そして後方には応急修理の為速度を落としながら離脱中の榛名がいる。

イギリスの艦上爆撃機はスクア、攻撃機はいまだ複葉のソードフィッシュと現在の日本軍艦載機に比べれば見劣りする機体だったが機動力を失った榛名は絶好の餌に違いなかった。


「まずい!第六戦隊に榛名を守らせるんだ!」


鈴谷、熊野が榛名へ向けて進んでいく。

接近してくる航空機は、恐らく敵機動艦隊から放たれた攻撃隊だろう。


「山本さんと総帥に戦闘機の援護要請を最優先で連絡しろ!全艦対空戦闘用意!」


鷺宮艦隊には軽空母龍驤が防空の為編入されており、そして今の帝国の工業力をもってしても機動艦隊の全ての艦上戦闘機を置き換えるまで生産できていない最新鋭の零式艦上戦闘機を、総帥直属とあるだけに空母龍驤は全機配備していた。


「山本艦隊からの連絡です!現在零式艦戦は全機攻撃隊としてこちらの海域へ向かっているそうですが、到着までおよそ45分とのこと!」


それではどう考えても間に合わない、敵機はもう目前まで迫ってきている。

もう残された選択肢は手にある戦力で敵の空襲を受けつつ敵艦隊へひたすら攻撃し、なるべく戦果をあげることだった。


「対空戦闘をしつつ敵艦隊へ攻撃をする!全艦攻撃目標、敵旗艦!」


徐々にお互いの照準が合い始め、恐らくここからは乱打戦だというのは双方が感じるところ、ようやく金剛にも命中弾が出る。


「敵旗艦へ主砲命中!中央部です!」


「ようやくか・・・!」


敵のキングジョージV世へ命中、だが最新鋭のイギリス戦艦は打たれ強く、炎上するのが見えるものの戦闘続行には問題が無いように見える。

重巡部隊の攻撃や、更には比叡からの射撃も命中するも射撃機能は失われておらず、特に減速する様子もない。


「やはりこの主砲ではもう時代遅れなのか・・・?」


この金剛、近代化改装にて建造時に比べれば見違える性能を手に入れたとはいえ、肝心の主砲は当時のまま、射撃管制システムも方位盤射撃照準装置を搭載した艦であるものの1910年代の古いもので、それを未だに使用している。

敵の最新の主砲とは、威力も命中率も段違いなのだ。

キングジョージV世とは1万トン以上の排水量の差もあり、船体が受ける一発ごとのダメージもその分小さい。


「榛名が!」


艦長が悲痛な叫びをあげる、とっさに榛名の方を見るとそこには群がる雷撃隊が見えた。

ソードフィッシュは四機一組で榛名に襲い掛かる。

対空戦闘を行うも、金剛型一隻と鈴谷、熊野の対空戦闘では複葉であるソードフィッシュにすら効果は薄く、撃墜できた機体も榛名の上を通り過ぎようとした機体であり魚雷は投下された後だった。

左舷から投下された魚雷は操舵すらままならない榛名に吸い込まれていき、二個小隊の投下した魚雷8本中5本が無慈悲にも命中した。

ギリギリで回避しきれなかった魚雷の一本は艦首へ命中し、榛名の艦首5mが分断され沈下してしまった。

バイタル区画への航空魚雷の命中はそこまでの被害を出さないものの、破断された艦首は進もうとすればするほどに浸水を起こす、榛名はそのまま速度を落とし、左舷へ若干傾きつつ漂流を始めてしまった。


「榛名から入電!浸水被害は軽微も艦首が完全に破壊され前進不可能とのこと!」


榛名へのソードフィッシュの雷撃は鈴谷、熊野の踏ん張りで敵機が嫌がり始めたものの、タイミング悪くキングジョージV世、ネルソンからの砲撃が集中し始め、さらには艦隊上空にはスクアMK.IIが飛来してきていた。


「敵の急降下爆撃隊か・・・!」


至近弾などもはや眼中になく、気になるのはひたすら榛名のことだけであった。

だが厳しい状況が続き、司令塔内の皆の表情も固まる中、遂に希望の光が差し込む。


「高角砲撃ち方辞めー!」


天楼の防空指揮所から高角砲の射撃中止命令が聞こえ、12.7cm砲が沈黙する。

他の艦艇からの射撃もパッと止み、齋藤艦隊参謀長の鹿屋が何事かと天楼に向かって伝声管に叫ぶ。

そして同じく何が起きたと双眼鏡を覗いた齋藤の眼には今現時点で最も望んでいた存在が映っていた。


白色の機体に交差した二本の青線、それは鷺宮鉄志直属の鷺宮直掩航空隊の零式艦上戦闘機であった。


「あれは、総帥の直掩隊か!」


帝国随一の精鋭によって操られる、世界でも突出した性能を誇る最新鋭戦闘機、それらによって構成される部隊は高角砲の防空で乱れ始めていたスクアの編隊を飲み込んでいき、一瞬にして壊滅させてしまった。


「なんと、こんな一瞬で・・・。」


あの部隊が榛名に襲い掛かっていれば、流石の戦艦でも持ちこたえることはできなかったかもしれない、そんな時に来た援軍は味方の士気も激烈に上げるものに違いはなかった。

そして戦闘機隊がスクアを壊滅させている最中、上空には無数の風切り音が響き、敵艦隊の周辺に無数の水柱を立たせた。


※同時刻 鷺宮艦隊 旗艦天城


「間に合ったか・・・。」


天城の司令塔内から双眼鏡で水平線を眺める。

そこには敵の物か味方の物かもわからない黒煙が無数に立っている。

敵航空機襲来の入電があった際、既に艦隊上空には直掩任務に就いていた一個大隊16機と、交代の為龍驤甲板にて待機していた一個大隊が居た。

戦闘海域まで60kmと迫っていたため燃料は十分であり、入電後すぐに上空に居た部隊を急行させ、更に準備中だった部隊にも発進させた。

結果として急降下爆撃は未然に防ぐことができたのである。


「敵艦隊までの距離40,000。」


敵艦隊まで35キロまで迫った。

天城型が搭載する50口径41㎝連装砲は、優秀な性能を認められた長門の45口径41㎝砲を更に長口径高圧化したもので、砲身寿命と引き換えに射程、弾速、精度を向上させたものである。

射程は40,000mまで伸びており、限界距離では戦艦に対しての有効打は期待できないものの、威圧には十分なるだろう。


「各艦全速!射程距離に入り次第砲撃開始!」


命令と同時に射撃盤室から声が入る。


「この距離で観測射撃をしても仕方ないので、最初から斉射で行きます!」


確かにこの距離で交叉を狙っても命中率は低いだろうし、命中してもキングジョージV世の甲板を抜ける可能性は低かった。

だとすれば圧力をかけるべく出来る限りの投射を行うべきだろう。

鷺宮は


「任せる。」


とだけ伝えると、数秒後に主砲が火を噴いた。

既に敵のキングジョージV世は浸水こそ軽微と見えるが、この数十分の間に健在の金剛型四隻と重巡洋艦からの集中砲火を受け、統率を失っているように見えた。

主砲の動きはまばらで、一時は榛名へ精度の高い射撃を行っていたものの散布界が広がり始め、当たる気配は消えていた。

そして鷺宮艦隊が到着し、更に数分すれば山本艦隊の攻撃隊が到着する。

無傷の戦闘艦はネルソンと二隻の重巡のみで、あとは駆逐艦が数隻。

始まりこそ榛名や三隈など日本側の被害も目立ったものの、レパルスを既に失い、フッド亡き今大英帝国海軍の誇りであろう最新鋭戦艦であるキングジョージV世、そしてネルソンすらをも失う可能性が出てきている、いざ結果を見ればこの海戦は帝国海軍の勝利が確実であった。


※補足情報

天城型巡洋戦艦

鷺宮は世界に対し自然な流れで空母戦力を確保するため、天城、赤城、加賀、土佐の四隻は史実の流れに合わせるように動かしていた。

関東大震災が起こり、赤城と加賀は空母となり、条約と共に解体された天城、標的艦となった土佐は改めて一から天城型巡洋戦艦として大和型戦艦までの繋ぎとして建造が開始された。

新造にあたり技術の進歩による恩恵を受け多くの箇所に設計の修正が加えられた。

魚雷発射管などは鷺宮の命にて廃止され、より高性能な機関の搭載、主砲の長口径高圧化など、より時代に合わせ、巡洋戦艦としての機能を強めている。

現在搭載している対空火器は最新式ではないが、大和型三番艦信濃、四番艦尾張、常念型重巡、その他新型艦艇の建造の為、各種装備の製造が追いついておらず、安定供給がされるまで対空火器強化改装は行われない予定である。


基準排水量 44,500トン

全長 252メートル

全幅 33メートル

機関 艦本式重油専燃缶大型8基 改良型艦本式オールギヤードタービン4基4軸

馬力 18万馬力

速度 34ノット


武装 九四式50口径41㎝連装砲 5基10門(前部2基 後部3基)

   九四式50口径14cm砲 8基8門

   八九式12.7cm連装高角砲 6基12門

   九六式25mm三連装機銃 10基30丁

   同単装機銃 4基4丁


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