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第四話 マレー沖海戦勃発(2)

※マレー沖 海戦海域


敵の艦隊からの発砲を確認し、第五戦隊司令官の相模吾平少将は自らの部隊をどう動かすか思考する。


「金剛型では恐らく敵新鋭戦艦の攻撃には耐えられない!我々が突撃し囮となるぞ!戦隊進路変更、敵艦隊!」


最上、三隈は一気に増速しあっという間に最大速度35ノットまで増速する。

出力重量比では戦艦とはやはり比べ物にならず、戦闘力と機動力の両立という面はやはり重巡洋艦というところの魅力ではあった。

そして主力部隊の脇を通り過ぎ離れようとしていた時、後方から水雷戦隊が付随してくる。


「入電!阿賀野、能代以下我々を追従する模様!」


その報告に相模は少し驚いた表情をする。


「司令の命令か?」


「齋藤司令による指示とのこと!」


少し微妙な表情を浮かべながら、相模は了解した、とだけ返す。


※10分後


海戦の火蓋が落とされてから10分程が経過した。

両軍ともにスコールからの砲撃、スコール内への砲撃の為主砲を命中させることはできていなかったが、両軍ともに着々と夾叉するようになっており、初弾命中までは時間の問題であった。

そんななか、初弾命中がついに飛び出す、この最初の戦果は高雄が発射した20.3㎝砲の主砲弾だった。


「高雄、敵先頭艦へ命中弾!」


おお!と司令塔内部もざわつきがおこる。

だが、そうして喜ぶのもつかの間、偶然かイギリス艦隊次の攻撃で今度は帝国海軍が被弾、その被弾の被害は、視界に入ってきた真っ赤な炎、そして轟音が示している。

先頭を航行していた榛名の右舷が大きな爆発と共に炎上する光景が司令塔からでも見えた。


「榛名被弾!爆発炎上!」


被弾した砲弾はキングジョージV世が放ったものであり、主砲の口径こそ金剛型と変わらないものの、主砲の設計時期には20年以上の差がある。

当然精度、弾速、そして威力は進歩しており、さらに金剛型は自らの35.6㎝砲に対してすら防御力的には不足していたことを考えると、一発の被弾ですら痛手となる。

榛名は右舷側面に被弾し、そのまま機関部へ命中、ボイラー室を破壊しスクリューを一機停止させてしまった。

被弾箇所は喫水線上の為浸水は発生しなかったが、過貫通することなく機関部で炸裂した砲弾はその威力を最大限発揮することとなってしまったのである。


「榛名を離脱させろ!」


みるみるうちに速度を落とす榛名は取舵を取り、戦列から離脱していく。

そして敵艦隊からの砲撃は減少し、最終的にはキングジョージV世のみが戦艦群へ攻撃してくるのみとなっていた。


「第五戦隊を狙い始めたか・・・。」


主力を離れ突撃していった第五戦隊はネルソン、レパルスからの集中砲火を浴び始めていた。



最上、三隈の二艦は至近弾を受けつつも邁進していた。

司令塔内に装填完了のランプが点灯し、砲術長が発射ボタンを押す。

戦艦の半分程度の口径とは言え20.3㎝は巨大というに十分な口径である、発射と共に艦首は下へと反動で押し下げられ、砕かれた波による水しぶきは艦橋にまで到達する。


そうして敵艦隊への接近に成功し、ついに距離は10kmにまで迫っていた。


「敵艦隊との距離1万!」


帝国海軍の技術の結晶、酸素魚雷、九三式酸素魚雷の射程距離は雷速36ノットの低速設定の最長で40km程、だがその距離で発射しては戦闘態勢にある敵艦への命中はほぼ望めないという研究結果が出されていた。

相模は有効打を得るには48ノットの高速設定で10kmまで接近する必要があると考えていた。

だが当然ここまで接近すれば敵味方両方とも主砲の命中率が上がってくる、最上、三隈もまた、全速運転に関わらず敵戦艦に対する命中弾が出始めていた。


「本艦、三隈どちらも魚雷の発射準備は出来ています!」


相模はうなずき、命令を下した。


「取舵60!右舷魚雷照準完了次第各自発射!」


日本の重巡洋艦の魚雷発射管は左右舷に配置されているため、正面に投射することができない。

その為どちらかに艦首を向けなければならなかった。

そうして転回が終わり、一分程の最終調整を経て、魚雷が独特な音と共に発射される。

三隈も発射し、更には後続の軽巡以下の水雷戦隊も次々と魚雷を発射していく。

軽巡、駆逐艦からも放たれた魚雷の数はこの一瞬にて144本、高い命中率は期待できないものの一本でも当たれば致命傷の必殺兵器と呼ぶにふさわしい兵器である。


「魚雷再装填急げ!もう一度斉射したのち本隊は離脱する!水雷戦隊へも伝えよ!」


敵艦隊とは同航戦に近い形となり、今までの前部三基だけでなく、後部の四、五番砲塔も砲撃を開始した。

軽巡だけでなく駆逐艦同士の砲撃も始まり、砲撃音は絶え間なく続く事となる。


最上、三隈、その他重巡6隻からの命中弾数は10を超え、ついには霧島から放たれた主砲が集中砲撃対象、先頭を航行するレパルスに命中した。

重巡からの命中弾で熾烈な火災を発生させていたレパルスにこの一撃は効いたようで、見るからに攻撃の統制が崩れ始めていた。


「好機!更に敵先頭艦へ攻撃を集中させろ!」


レパルスはたまらず回頭を始め、離脱しようとしたその時、ついに魚雷が到達した。

どの艦が放った魚雷かは不明だが、回頭を始めたレパルスの艦首に一本、左舷中央部に二本の水柱と爆発が起こる。

煙突からは水蒸気のようなものが噴き出しているように見え、それは機関室へのダメージを示していた。


「なんと・・・!」


酸素魚雷の威力は前々から承知していたものの、訓練用弾頭と実弾ではレベルが違う。

レパルスが一瞬浮いたようにすら見えるその威力は凄まじく、一瞬にしてレパルスは左舷へと傾いていく。

レパルスにとって不運だったのは、回頭の為に面舵を取っており、それは左舷への浸水をより助長することとなってしまった。


「敵、先頭艦、爆沈!」


その報告と共に、司令塔内ではみなが歓喜していた。

そうして更にキングジョージV世にも一本、ネルソンにも一本の魚雷が命中した。

この二艦にも一本の魚雷でも相当な被害が生じているのが目に見えた。


そうしているうちにも砲撃は続き、魚雷の装填作業も終了、発射目前というところで三隈に敵の主砲弾が命中した。

駆逐艦などにも命中弾が出始めており、数隻が離脱していた。

そして三隈には重巡から放たれた主砲弾が側面へ命中した。

戦艦とは違い、重巡クラスの主砲弾であれば、最上型でも十分な防御力を有している。

既に三隈は20.3㎝砲2発と、駆逐艦の10.2㎝砲三発の被弾をしていたが損害は軽微で、戦闘続行に異常はなかった。

だがこの被弾だけは違い、ドーセットシャーから放たれた主砲弾は発射準備中の魚雷発射管へ直撃し、安全装置などを取り外した魚雷が誘爆を起こした。

三隈の右舷は大爆発を起こし、上甲板だけでなく喫水線下までをも吹き飛ばしてしまい、更には射程圏内の為射撃中であった12.7㎝砲の砲弾などにも誘爆してしまい断続的に爆発を発生させることとなった。

三隈はみるみると傾斜していき、既に右舷上甲板は水面に浸っている。


「三隈から入電!浸水の速度は早く、排水の余地なし。総員退艦命令が発令されたとのこと!」


相模はあまりの一瞬の出来事に呆然としつつ、後続の駆逐艦への救出作業を命じた。


「くそっ、退避だ!仕事はした、これ以上は敵戦艦相手には持たない!駆逐艦部隊に煙幕を展開し三隈の救援作業に当たるよう指示しろ!」


これ以上とどまり、戦艦からの砲撃を受ければひとたまりもない。重巡と戦艦の攻撃力はまさにレベルが違うのである。

三隈の轟沈により統制が乱れながらも、最上は転舵、敵艦隊からの離脱を図る。

水雷戦隊も駆逐艦数隻を残し、退避するべく回頭を始めていた。


そうして若干の落ち着きを取り戻し、水平線を眺めていた相模の眼には、無数の黒点が上空に映し出されていた。


こんなペースですがお付き合いください

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