第四話 新たな侵入者
マルス王国に属する村リーシャ。特に裕福でも寒村でもない普通の村。普段は静かなこの村では珍しく多くの人が一か所に集まっていた。
先日、隣町のミルスまで出掛けた若者達が帰らないのだ。1日なら気にすることはないが2日も音沙汰がないのは異常だ。そして今日で3日目。
村人たちは三人の捜索をするために話し合っていた。
「あの三人が行方不明となると賊に襲われたのでは?」
「だがあの三人はそこまで金目のものは持っておらんぞ。賊に狙われるような理由がない。魔物では?」
「いや、あの三人がそこらの魔物にやられるとは思えん。特にアルは固有スキル持ちの魔法使いだぞ。・・・賊もだが戦って負けたのではなくミルスでトラブルに巻き込まれたのでは?」
「原因はどうでも良い!問題はどう行動するかじゃ。取り敢えずミルスまで行って調べるべきじゃろう。ミルスにいるならヨシ、目撃情報がなければ冒険者ギルドに捜索依頼を出すべきじゃな」
「・・・確かに、それしかないでしょうな。外を闇雲に探してもキリがない。ミルスには行くべきですな」
「うむ、決まりじゃな。賊や強力な魔物が発生した可能性も考慮して自警団10人で向かってくれ」
「了解しました、村長。それではさっそくミルスに向かいます。私も息子が心配ですので」
「ああ、くれぐれも気を付けるのじゃぞ。息子のレックスが行方不明で焦る気持ちは分かるが、お前たちまで失えばこの村は終わりじゃ。必ず戻れ」
「承知しております。では失礼します」
「うむ」
こうしてリーシャ村自警団10人はミルスに向かって出発したのだった。
俺はレオン。リーシャ村自警団の団長兼狩人だ。バカ息子のレックスが行方不明となったため現在ミルスに移動中だ。
もちろんただ移動しているのではなくバカ息子たちの痕跡を探りながら進んでいる。村からミルスに向かったのは最近だとあの三人だけ。しかも雨も降っていない。これだけの条件ならば狩人として獲物の足跡を見続けてきた俺にかかれば朝飯前よ。
あの三人の足跡を追うこと1時間、三人の足跡が街道の外に向かっているのを発見した。どうやらあの馬鹿どもは安全な街道を逸れて行方不明になったようだ。生きていたらぶん殴ってやると誓いながらも冷静な思考が俺の歩みを止める。
若い頃の俺なら何も考えずに街道を逸れて三人の痕跡を追いかけたが今の俺は責任ある自警団の団長だ。周囲を巻き込むわけにはいかないし、俺自身も生きて帰らないと村の損失になる。若い男が既に3人も生死不明なんだ。これ以上の犠牲は出せない。
だが、息子たちが心配なのも事実。とりあえず街道に賊や魔物が出たわけでもなさそうだ。数合わせだった非戦闘員を3人ミルスに向かわせ残りの7人で足跡を追うことにした。
足跡を追いかけ直ぐにあの3人が街道を逸れた理由を察した。崖に大きな洞窟が出来ている。最近は息子に任せてミルスには出向いていなかったから気が付かなかったが、こんな場所に洞窟はなかったはずだ。
急にできた洞窟、3人が行方不明になったことを考えると・・・間違いなくダンジョンだな。まさか村の近くにダンジョンができるとはな。・・・若い頃の俺なら間違いなく入っている、・・・息子のことを馬鹿にできんな。
「エイ、副団長のお前を失う訳にはいかん。お前は村に戻ってダンジョンの事を村長に報告してくれ」
「はいよ。アンタは入るのかい?」
「ああ、まだ生きている可能性があるからな。可能性があるなら諦めんよ。・・・俺は父親だからな」
「ハッ、中のこと後で教えてくれや」
「ああ、もちろんだ」
俺達リーシャ村自警団6人は未知のダンジョンに突入した。
ダンジョンの中は一本道のただの洞窟だ。見たところ魔物も居ないな。だがあの3人が戻らない何かがあるはず。陣形を取りつつ全方位を警戒しながら進む。
しばらく進むと開けた空間に出た。見たところここにも何もなさそうだ。この空間は左右に道が分かれている。あの三人がどちらに向かったか痕跡を探るが“やはり”分からない。
洞窟に入るまでは三人の足跡を確認できたのだが、洞窟の中では三人の足跡や痕跡が確認できないのだ。これもダンジョンの特性なのだろうか?ダンジョン内では何が起きても不思議ではないと言われているのは知っているが、これでは捜索に時間が掛かり過ぎる。
「団長、どうしますか?」
「・・・左に向かおう。なんとなくだが左にいる気がする」
「団長の直感は当たりますからね。信じますよ」
俺の直感はよく当たる。もちろん外れたこともあるのだが普通の人よりも確実に的中率は高い。これまでも直感でいくつもの修羅場を潜り抜けてきた。
俺達は全員で左に向かうことにした。"これ以上は進むべきではない"と訴えかけてくる自分の直感に気が付かないフリをして。
左の道に入ってからどれくらいの時間が経過しただろうか。あれから二つの開けた空間を通ってきたのだが何もない。ダンジョンの中に仕掛けられているという罠もなく、魔物にも遭遇しない。
「・・・何もないな」
「ええ、・・・不気味ですね。まるで誘い込まれているような気がします」
「ああ、何もないからといって油断するなよ!特に背後に警戒しておけ!」
「「「了解!」」」
そのまま通路を進み続けるともう一度開けた空間が見える。だが、今までの場所とは少し趣が違う。今までは何もない空間だったがまるで檻のような格子が見える。中には誰かが倒れているようだ。・・・まさかレックスか!!
倒れているのが息子かもしれないと思うと身体が勝手に動いた。部屋の中に突入し周囲を探る。部屋の中には檻が三つあり、それぞれの檻の中に一人が倒れていて全員意識はないようだ。顔が見えないが服装から間違いなくアル、カイル、レックスの三人だと分かる。
急いでレックスの檻に駆け寄り扉を壊そうとすると・・・一つの違和感に気が付いた。檻の扉が開いているのだ。本当に少しだけで近寄らないと気が付かなかったが、確かに檻は開いている。それが何とも不気味で無意識に一歩だけ後ろに下がっていた。
そして俺が一歩下がった瞬間、レックスが起き上がった。いや、アルとカイルもだ。三人ともゆっくりと起き上がる。
愛する息子と息子の友人たちが起き上がったというのに俺は・・・俺達は絶望していた。
「な、なんなんだコレは!!!」
「どうなっているんだ!?」
「・・・なんてことだ」
起き上がった三人は明らかに死んでいた。顔色は血の気がなく土色で目は虚ろ。口はだらんと空いていて舌が出ている。死んでいるはずなのに動く者達。動く死体、アンデッドだ。
存在は知っていたが自分の息子がアンデッドになったショックは大きく、身体が動かない。呆然と変わり果てた息子を眺めていると、ゆっくりと動き出し自分達で檻から出てきた。
「て、撤退だ!脱出するぞ!!!」
それを見て我に返った俺達は速やかに脱出することにした。三人は見つかったしアンデッドになったとはいえ自分の息子を倒すことなどできはしない。ここは一旦退却してアンデッドについて調べるべきだろう。もしかしたら治す手段もあるのかもしれない。
全力で撤退する俺達は直ぐに開けた空間に戻った。そのまま通り過ぎようとした俺達の前にいきなり魔物達が現れる。
濃密な死の気配を放つ小柄なアンデッド。それを守護するように囲む変わり果てた息子達。
そしていつの間にか俺の目の前にいる可憐な少女。桃色の髪に褐色の肌、身長の割には大人の女性に匹敵するほどの豊満な発育の良さ。今すぐにでも口説いてしまいそうになるほど可憐だが、その背中の羽と腰から伸びた尻尾が人ならざるものだと示している。
迎撃するために剣を構えるが、気が付くと自分が不必要に深呼吸をしているのに気が付いた。香りだ。少女が放っている良い香りを堪能するために深呼吸をしてしまう。
俺の直感が呼吸を止めるべきだと訴えかけているが止められない。深呼吸を続けて香りを取り込むことで身体の一部が熱を持って固くなる。
「あらあら、すっかり私の虜ね。まだ何もしていないのに」
少女が近づいてきてゆっくりと固くなったところを撫でてくる。ただ触られているだけなのに気持ちよくて抵抗する気になれない。
「ほら、私の目を見なさい。"催眠"」
少女に命令されるままに目を合わせる。合わせた瞬間に身体の力が抜けて睡魔が襲ってきた。仲間たちの悲鳴を聞きながら俺は眠りについた。
捕虜を捕まえて三日が経過した。DPが振り込まれるのは一時間に一回、既に72回DPが振り込まれた。そしてDPの量は一人当たり一回10DPだった。
捕虜の数は三人。振り込まれた回数は72回なので2160DPを手に入れることができた。
しかし、ダンジョンコアが毎日100DPずつ消費するので実際は+1860DP。
なので1400+1860で俺の所持DPは3260DPとなる。Dランクを基準にすると戦力の補充なんて夢のまた夢だ。DPが圧倒的に足りない。
「DP貯まらないな・・・監禁部屋を増やして捕虜を捕まえまくるのが正解なのか?」
まさかこんなにもDPで困ることになるとは・・・誰かオススメの金策を教えてくれ!!!
そんな現実逃避をしているとパソコンから緊急アラートが鳴り響く。侵入者が来たのだ。
侵入者を監視すると侵入者の数は6人。全員武装しているな。前回の侵入者よりしっかりと武装していてまるで兵士みたいな格好だ。
入ってきた侵入者たちは周囲を警戒しながらゆっくりと進んでいる。そのまま休憩部屋に辿り着き監禁部屋のある左側に向かった。
それを確認した俺は監禁部屋の防衛を諦めて、監禁していた捕虜を殺して眷属にするようにデスに命じた。デスの手で殺された三人は、デスの【眷属作成】によってアンデッドに生まれ変わる。
ステータス
D-ランク
名前 カイル
種族名 ゾンビ・ウォーリア
戦闘力 740
種族スキル 【再生】
技能スキル 【武術:剣術(中級)】 【武術:体術(下級)】
ステータス
D-ランク
名前 アル
種族名 ワイト
戦闘力 920
固有スキル 【魔力解放】
種族スキル 【霧生成】 【再生】
魔法 【攻撃魔法:火(中級)】
ステータス
D-ランク
名前 レックス
種族名 ゾンビ・ハンター
戦闘力 840
種族スキル 【再生】
技能スキル 【武術:剣術(中級)】 【武術:体術(下級)】
【武術:弓術(下級)】 【索敵】
三人とも中々の戦力になってくれたな。この三人はそのまま監禁部屋の看守として配置する。倒れているフリでもさせておけば油断も誘えるかもしれない。
あと殺したときに3000DPを獲得した。1人殺せば1000DPみたいだな。
監禁部屋には3体までしか配置できないのでデスは戦闘部屋Bに戻しておく。
「さてと、やることはやったな。あとは高みの見物だ」
「ねえ、マスター。私も部下欲しいー!」
「我は要らぬな」
シャルとリリスを隣に侍らせながらデスの【眷属作成】を見ていたのだが、リリスも自分の部下が欲しいみたいだ。
「だけどリリスは眷属作成のスキル持ってないだろう」
「舐めないでよね!進化した今なら可能よ。人間なんて性欲を管理してあげたら簡単に堕とせるんだから。今回侵入してきたリーダー格の男で良いわよ!・・・あと、マスターのココも・・・管理してあげようか?」
そう言いながら怪しい手つきで俺の股間に手を伸ばしてくる。まさか主人である俺を【魅了】しようとするとは・・・けしからんメスガキだ。ぜひお願いしてみたいがシャルから途轍もない怒気を感じるのでやめておこう。
「おい、小娘!主様の貞操は我のものじゃ、貴様はあの男と乳繰り合っていろ」
「はぁ!?誰があんなオッサンと乳繰り合うですって!?冗談にしてもやめてよね!!」
「まあまあ二人共落ち着いて、どうやら監禁部屋に着いたみたいだ」
二人がじゃれ合っている間に侵入者達は監禁部屋までたどり着いた。リーダーと思われる男が先行して檻の前まで駆け寄り、檻の扉を壊そうと剣を振りかぶって止まった。
なるほど。流石に扉が開いていれば違和感を感じるか。捕虜が中に居ないと檻の扉は閉まらないようになっているみたいで少しだけ隙間ができるのだ。近付けばそりゃバレるだろう。
これ以上引き付けることは出来ないと判断して三人を起き上がらせて侵入者を撃退するように命令を送る。
俺の命令を受信したアル、カイル、レックスの三人はゆっくりと起き上がり自分から檻の扉を開けて外に出た。・・・どんな戦闘を見せてくれるのか期待していたんだがそのまま侵入者達が反転して逃げ始めた。
見た感じ知り合いみたいだったし戦闘ではなく逃走を選んだみたいだ。だが逃がすわけにはいかない。まだダンジョンの情報は秘匿しておきたいし監禁部屋の捕虜も新たに必要だ。
部屋Bにデスと、アル、カイル、レックスの眷属トリオ、それと部下が欲しいと言っていたリリスを配置する。【眷属作成】のスキルもなしにどうやって部下を手に入れるのかお手並み拝見だな。
「やっと邪魔な小娘がいなくなったのじゃ。んっ…ちゅ」
そういってシャルが俺の身体に覆いかぶさって口付けをしてきた。いや、見えないんだが……。
「安心せい。主様が見るほどの事はおこらん。あの小娘が手駒を獲得し、アンデッド共が監禁部屋の養分共を捕らえて終いじゃ」
シャルがそう言うならそうなるんだろうな。どうやら全てが上手くいくらしい。リリスの活躍も見てあげたかったのだがシャルが離してくれそうにないので諦めて舌を絡ませる。
「どうよ、マスター。私だって人間の雄の一匹くらい……って何やってんのよおぉぉおお!!!」
どうやらリリスが戻って来たみたいだ。スマン、お前の活躍は見れなかった。