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ダンジョンマスター  作者: 饅頭
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第三話 初めての侵入者

 マルス王国に属する村リーシャ。特に裕福でも寒村でもない普通の村。ここが僕の生まれ故郷だ。


 僕の家は代々農家をしていて野菜を栽培している。作った野菜を隣町のミルスまで売りに行ってお金にしたり、村の住人たちと物々交換をして暮らしているんだ。


 僕も子供の頃から家の手伝いで畑の世話をしてきたけれど、成人してからは年を取った両親に代わり町まで野菜を売りに行くことが多くなった。


 今日もミルスまで野菜を売りに行く。ミルスまでは魔物除けの魔法がかけられた街道でつながっているけれど絶対に安全という保障はない。ちゃんと武器を持って行く。重たいから防具はつけないし武器も軽い小剣(ショートソード)だけど。


 あと、他にも同じような家はあるため町に行くときは一緒に行くようにしている。一人で行動するよりも複数人で行動したほうが襲われないからだ。


 今日ミルスまで何かを売りに行くのは僕を含めて三人だ。待ち合わせの時間まであと少しだからもうそろそろ来ると思う。


「おーい。待たせちまったな、カイル」


「お待たせしました、カイル」


 噂をすればなんとやら。今話しかけてきたのは幼馴染のレックスとアルだ。まあ、狭い村だから同じ位の年齢はみんな幼馴染だけど。


 レックスは村一番の力持ちで腰には長剣(ロングソード)を差している。彼の家は狩人の家でミルスには干し肉を売りに行っている。彼の家の干し肉には僕の家もお世話になっている。


 アルは薬草園を管理している薬師の家の跡取りだ。彼の家のポーションの効果は高く、ミルスの冒険者たちから絶大な人気を誇っていてこの村の生命線でもある。アルは僕以上に非力なため短剣(ナイフ)を装備している。しかし、彼は魔法を使えるため戦闘力は一番高いかもしれない。



 「そんなに待ってないよ。準備ができたなら行こう」


 「そうだな。早く行って暗くなる前には帰ってこようぜ」


 「そうしましょう。明かりもただではないですからね」



 それぞれミルスで売るための荷物を持って村を出た。荷台を引くための馬が村にはいないので自分で荷物を持つのだ。ミルスまでは片道2時間程度の道のりで毎日往復できるためそれほど沢山の荷物が運べなくても問題ない。






 村を出て1時間程度が経っただろうか。もう何回も通った道を歩いていると違和感があった。街道の近くに崖があるのだがその崖に洞窟ができているのだ。今までこんな洞窟は見たことがない。


 急に出現した洞窟。これについて思い当たる物が一つだけある。ほかの二人の顔を見るとどうやら二人も僕と同じ結論に至ったらしい。



 「・・・ねえ、・・・これってそういうことだよね?」


 「ああ。その筈だぜ。こんな所に洞窟なんてなかった」


 「急に現れた洞窟・・・ダンジョンですね」 



 ダンジョン。それは攻略者に富と名誉を齎す希望であり、災禍と不幸をまき散らす絶望でもある。


 ダンジョンが確認されると国や冒険者ギルドが調査してダンジョンの危険度が決定される。危険度が低いダンジョンについては国が管理してダンジョンから手に入る富で国を潤すそうだ。危険度が高いダンジョンは冒険者ギルドが攻略者を募り完全攻略をする。


 完全攻略とはダンジョン最大の宝物【ダンジョンコア】の発掘だ。ダンジョンコアには膨大な魔力が蓄積されていて様々なことに使えるらしい。


 しかしダンジョンコアを発掘したダンジョンは消滅してしまうので管理が不可能な危険度の高いダンジョンが完全攻略の対象になる。


 管理できるダンジョンならダンジョンを消滅させるより、管理して永久にダンジョンの富を手に入れるほうがメリットが大きいため完全攻略の対象にはならない。


 ダンジョンは放置していると魔物が外に出てきてしまうため発見したダンジョンは国か冒険者ギルドへの報告が義務付けられている。


 しかし、できたばかりのダンジョンはどれも危険度は低いとされている。つまり僕たちでも攻略し、富を手に入れられる可能性がある。



 「これって・・・チャンスなんじゃねーか?」


 「危なくないですか?冒険者ギルドに報告するだけでも報酬が出ますよ?」



 レックスが探索しようと声を上げるがアルは反対みたいだ。確かに新発見のダンジョンは報告するだけでも報酬が出るが、あくまで新発見の場合だ。



 「でもよ、こんなに目立つ所にあるんだ。他の奴らが報告してるかもしれないぞ」



 レックスが僕の思ったことを言ってくれた。ここはミルスからたったの1時間程度で来られる場所だ。ミルスには冒険者ギルドがあるため既に報告されている可能性もあるのだ。

 


 「それはそうですが・・・カイルはどう思いますか?」


 「すこしだけなら入ってもいいんじゃないかな。中にいる魔物が弱そうなら僕たちでも大丈夫だと思うよ」



 冒険者を名乗れるほどではないが多少の力は持っているんだ。三人で協力すればDランクの魔物だって倒せるだろう。D+ランクは厳しいけど。



「決まりだな。アルの心配も分かるが一回くらいは入ってみようぜ」


「・・・わかりましたよ。私も興味自体はありますからね」



 話し合いをして探索する事になった。ダンジョン探索は子供の頃からの夢だった。それは他の二人も同じはずだ。


 小さい村で育った僕たちの世界は狭い。このダンジョンで何かを得られたらもっと広い世界に行けるのではないか。そんな期待を胸に抱きながら僕たちは欲望渦巻くダンジョンを進み始めた。







 「何もないね」


 「本当にな」


 「拍子抜けですね」



 緊張しながら入った人生初のダンジョン。明かりもないのに明るく、洞窟の中にあるのに土や岩とは少し材質が違うような不思議な通路を進んでいく。


 未知への期待と不安、魔物への警戒をしながら進むこと10分ほど経過しただろうか、人が数十人はくつろげそうな広い部屋のような空間に出たのだが何もない。左右に道が分かれているが視界には魔物一匹映らない。


 もっとこう魔物との連戦とか悪辣な罠を警戒していたのでアルが言ったように拍子抜けだ。



 「分かれ道があるけどどうする?」


 「どっちも変わんない気はするが、俺は右に一票」


 「じゃあ私も右にしましょう」



 最初の予定では少し入ったら戻るという話だったが魔物を見ていないのに戻る気にはなれない。三人揃って右の道を進んでいく。





 「止まれ!・・・魔物だ」



 右の道をしばらく歩くと前方に開けた空間があるのが分かる。先ほどと同じような部屋があるのだろう。しかし、今度の部屋には魔物がいるようだ。


 狩人をしているレックスの索敵は僕とアルより優れているため大人しく指示に従う。



 「ここから先は気が付かれないようにゆっくり行くぞ」


 「「了解」」



 小声でやり取りしてゆっくりと通路を進み、おそるおそる部屋を伺うと魔物が見えた。

Fランクのスライムとマタンゴだ。マタンゴの毒には注意が必要だがそれほど強い魔物ではない。スライムが7体、マタンゴが3体。三人なら余裕だろう。


 敵に気が付かれる前に三人で一斉に突撃する。狙いはマタンゴだ。スライムは粘液がうざいだけで大した攻撃能力は持っていないため後回しにする。



「「斬撃!(スラッシュ)」」



 僕とレックスは剣でマタンゴを一刀両断にする。斬った瞬間にマタンゴから紫色の煙が出てくる。毒の胞子だ。急いで煙の範囲外に逃れ、残りのスライムを警戒する。



 「火球(ファイアー・ボール)



 アルの"火球"が炸裂し、最後のマタンゴは消し炭になった。これでもう負けはない。三人で残りのスライムを駆逐する。僕とレックスは2回、アルは3回の攻撃でスライムを処理する。



 「取りあえず無傷で突破できたね」


 「Fランクしか出てこなかったからな。ただ、普通の個体に比べてかなり頑丈だったな。ダンジョンだからか?スライムなんて一撃で倒せるはずなんだがな・・・」


 「これからどうしましょうか。確かに普通の種類よりは強かったですけど・・・想定通り出現する魔物は低ランクみたいですし体力にも魔力にも余裕はあります。もう少し進みますか?」



 最初は魔物を調べるのが目的だったけど出てきたのはFランクの魔物のみ。アルが言った通り消耗も少ない。もう少し探索しても問題はないだろう。まだ先があるみたいだし。



 「僕はもう少し探索してみたいな。こんな機会はもうないだろうし」


 「そうだな。間違いなく国が管理するだろうしな。そうなったら一般人の俺らは入れなくなる。これが最後のチャンスかもしれねえ」


 「分かりました。進みましょう」



 国が管理するダンジョンは国が許可したものしか入れないし、国が管理していない高難易度なダンジョンの攻略は僕らには不可能だ。


 つまり国が管理する前の弱いダンジョンに潜れるのはこれが人生最後の可能性が高い。この奇跡のようなチャンスを無駄にしたくないのはみんな同じだ。


 なんとしてでも富を見つけようと僕らは進み始めた。最初には持っていなかった欲を抱えて。








 スライムとマタンゴがいた部屋から先にしばらく進むと奇妙な光景が広がっていた。霧が漂っているのだ。



 「この霧・・・毒だったりするのかな?」


 「いや、ただの霧だな。毒なら鼻がピリピリするはずだ」


 「煙幕でしょうか?」


 「その可能性はあるな。慎重に進もう」



 レックスの言葉を信じて慎重に進む。そうするとまた前方に開けた空間が見える。しかし霧のせいでぼんやりとしか見えない。



 「また魔物がいるみたいだな。視界が悪いがどうする?」


 「敵の確認ができないのは辛いね。このまま行くのは不安かな」


 「それでは、ここから魔法で攻撃して霧を吹き飛ばしましょう」



 アルの提案が一番安全な手段なので僕とレックスは通路の左右で警戒し、アルには僕たちの少し後ろから魔法で攻撃してもらう。


火球(ファイアー・ボール)


 アルの放った"火球"が部屋の中で炸裂し、霧を一時的に吹き飛ばす。

霧の晴れた部屋を見るとゴブリンとアンデッドがいた。


 ゴブリンは数が多いと危険なモンスターだが6体しかいないためそれほど苦戦はしないだろう。しかし、アンデッドは違う。確認できるアンデッドの数は4体だが何れも強敵だと分かる。特に、1体だけ明らかにレベルの違うのが混ざっている。


 ところどころ骨が見える顔から覗く眼光は生命に対する憎悪と悪意に満ちており、霧に覆われたボロボロのローブからは不吉な気配を感じる。濃密な死の気配を放つその小柄なアンデッドを目にした瞬間に僕たちは逃走した。


 しかし、もう遅かった。あのアンデッドと目を合わせた時点でもう手遅れだった。


 さっきの部屋で帰るべきだったのだ。魔物を倒して満足するべきだった。いらぬ欲をかき身の丈に合わぬ物を欲するべきではなかった。


 先ほどアルが打ち込んだ"火球"と同じものが背後から三つ迫り僕たちに着弾した。



 「「「っ・・・!」」」



 三人ともあまりの痛みに声にならない悲鳴が出るだけだ。背中に高温の"火球"が炸裂した結果、荷物をまき散らしながら三人とも転倒した。レックスだけはなんとか起き上がり、アルの荷物袋から落ちたポーションを拾って僕たちに掛ける。



 「早く逃げろおおおおお!!!」



 背後から襲ってきたゴブリンを迎え撃ちながらレックスが叫ぶ。僕はレックスの背中にポーションを投げつけて逃げる。

 


 「魔力開放(マジック・ブースト)火槍(ファイアー・ランス)!!」



 アルはありったけの魔力を込めた火属性の中級魔法"火槍"を部屋に向かって放って僕に続いて逃げた。見てないのでどうなったかは分からないが巨大な炸裂音が鳴り響く。



 「ナイスだアル!あのやばそうなアンデッド以外は木っ端みじんだぜ!!」


 「それは良かった!早く逃げますよ!」



 どうやらレックスも無事に窮地を脱して逃げてきたみたいだ。


 僕、アル、レックスの順番で通路を駆け抜けて逃走する。そして、スライムとマタンゴがいた部屋に辿り着いて僕たちは絶望した。



 「そ、そんな・・・いつの間に!」


 「クソッ!どうなってやがる!!」


 「まさか・・・転移したというのですか!」



 あのアンデッドが先回りをして僕たちを待ち構えていたのだ。赤い眼光に睨まれて恐怖で身体が動かない。


 先ほどまでは希望があった。逃走して脱出すれば助かる希望が。だが、逃走経路を塞がれ絶望したことで恐怖に絡み取られた僕たちは近付いてくるアンデッドを眺めることしかできない。


 そしてアンデッドの手が顔に触れて僕の意識は真っ黒に染まった。







 「いや、強くね?」



 それが初の侵入者を撃退した俺の第一声だった。



 「見た感じただの村人って感じだったのに・・・強くね?村人なんて強化されたスライムとマタンゴで止まると思ってたのに・・・」



 最後に魔法使いが放った火の魔法で、強化されたワイトが消し飛んだ時の俺の気持ちよ。ゴブリンはともかく【再生】持ちのワイトすら粉々になってたしな。


 しかも咄嗟にデスを戦闘部屋Cに移動させなかったら逃げられていただろう。そう考えると入口のすぐ近くに休憩部屋を設置するのは逃げられたくない状況だとリスキーだな。



 「え?村人であれなら冒険者とかやばくね?ひょっとして・・・Dランク未満の魔物って何の役にも立たないのでは?」



 もしそうなら俺のダンジョンの戦力はシャルロット、リリス、デス、ゴブリンキングの4体と、ギリギリ合格のゴブリンナイトの5体だけになってしまう。 幹部や幹部候補だと思っていたらただの一兵卒だった?


 そして俺のダンジョンには一兵卒が5体しかいないことになってしまうのか?シャルロットは別格だが。



 「マジ?そんなん防衛だけで精一杯なんですけどー。捕虜捕まえても速攻救出されるし意味ないんですけどー」



 あまりのショックに少しキャラ崩壊をしながら叫ぶ。一通り叫んでから捕らえた侵入者について考える。


 あの3人は監禁部屋で監禁している。


 しかし、速攻で救出されてしまう可能性が出てきたのだ。何とかしたいが看守として配置できる強い魔物なんていない。今は暫定的にデスを看守として置いている。次の侵入者が来たら殺して、デスの【眷属作成】でアンデッドにする予定だ。



 「我がおるから心配無用じゃよ。どんな者が来ても塵にしてくれるわ」



 悩んでいるとシャルロットが慰めに来てくれた。膝の上に乗ってきて抱きしめてくれる。ほんのりと膨らんだ胸が顔に当てられ甘い匂いで頭が痺れる。

 


 「ちょっと抜け駆け禁止!」



 シャルに癒されているとリリスが背後から抱きしめてきた。後頭部に豊かな果実が押し付けられて気持ちいい。


 そのまま2人にオギャりながら精神を癒した。


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